胸に残る一番星 | ナノ

  Samady Ball Run returns!


『今回のレースの優勝賞品は何とサマディー秘蔵のお宝! 中身はもらってからのお楽しみ!』

 熱気が漂うこの国に久々に訪れてみれば、そんな謳い文句が書かれた貼り紙があちらこちらに貼られていた。そのうちの一枚をちょいと拝借し、建物の陰で涼みながら一緒に眺め、それからカミュはイレブンと顔を合わせて苦笑いする。

「お宝、ねえ」
「秘蔵だって」

 大通りで行き交う民衆に意識を向けると、賞品はどんなものなんだろうなあ、とか今度こそモグパックンが勝つに賭けるぞ、などとレースの話題でもちきりで、国中が沸き立っているようだ。しかしこの国の内情、もとい財政難を知っているふたりからしたら、いよいよ出せるものもなくなったのではないかと考えてしまうのも無理はない。

「ろくなものじゃねえかもしれねえが、どうする?」
「せっかくだから参加してみよっかな」
「お、ならオレはとっくりと観戦させてもらうぜ」

 優勝賞品はどうも期待できないというか、大したお宝のにおいが感じられないものの、今は取り立てて用事もないので、相棒が挑戦したいというなら異議はない。そうと決まれば参加申し込みに行くか、とカミュが歩こうとしたが、イレブンはビラを見つめたまま立ち止まっている。

「……どうした?」
「ね、カミュは参加しないの?」
「オレ……?」
「秘蔵のお宝、もしかしたらとんでもないものかもよ?」
「つっても、お前なら優勝できるだろ」

 サマディー名物ウマレース。初めて参加したときは、この国の王子サマの替え玉という任務もあってガチガチに緊張していたイレブンも、今や気負うことなく参加表明するぐらいには慣れきっている。さんざん素材ゲットと息抜きを兼ねて走っていたからだろう。久々とはいえイレブンの感覚が鈍ってさえなければ、難なく勝つのは目に見えている。つまりカミュが参戦する必要性はないだろうに、この相棒はどうも不服そうだ。

「むう」
「何だよ」
「僕、初めてこのレースに参加したときから、カミュだってぜったい優勝できるのにって思ってたんだけど」
「マジか」
「君だって速く走れるでしょ」
「……どうかな」

 馬に乗ることはまあ、出来る。とはいえ誰かにしっかり教えてもらったわけでもない。恐らくイレブンはあの日、カミュと共に逃走したときのことを思い浮かべて根拠にしているのだろうが、あれだって火事場の馬鹿力にすぎなかったかもしれないのに。

「ていうか僕が見たいだけなんだけど」
「なんだそりゃ」
「だってカミュが馬に乗ってるすがたかっこいいもん」

 もん、てお前なあ。

 まるでふたり旅だった頃のような、いや今もふたり旅中ではあるが、出会ったばかりのときのような、純粋な目を向けられればカミュは何も反論出来なくなるのだ。

「いいのか? オレが優勝かっさらっちまっても」

 気恥ずかしさを誤魔化すようにおどけて言えば、イレブンはもちろん、とにやりと笑う。

「でも僕だって負けないから!」

 勝負しようよカミュ! なんて、何が目的なんだかわからなくなってきたが、たまにはこういうのも悪くないか。

「そんじゃいっちょ、ワンツーフィニッシュキメてくるか、相棒!」
「うん!」

 黒い太陽も消え去り晴れ渡ったサマディーの空の下、ふたりは駆け出したのだった。





お題「サマディー城下町」
200720

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