胸に残る一番星 | ナノ

  BlueSapphire


「カミュとプールに行きたいな」

 洗剤を切らしていたことを思い出し、スーパーに寄ってからの帰り道。デートの締めくくりとしては何とも色がないものになってしまったが、年下の相棒、兼恋人――イレブンは、にこにこしながら買い物を手伝ってくれた。ただ、もう帰るなんてさびしいなあ……と、今日が終わることを惜しんでいた。それはカミュだって同じだが、明日は学校がある高校生を夜遅くまで連れまわすなんて出来ないのだから仕方ない。

 また休みが合えばどこか行こうぜ、とさり気なく次のお誘いをすれば、「じゃあ、」とイレブンが嬉しそうに要望を口に出す。はて、プール?

「おいおい、まだ初春だぞ。さすがに早くねえか? ていうかさっき見た映画に影響されたな?」
「えへへ……バレた?」

 笑うイレブンの髪をそよ風が撫でる。暑がりの自分としてはほどよいが、世間一般的にはまだ肌寒い頃合いだろう。なのに急にイレブンがそんなことを言い出した理由には、心当たりがひとつある。今日見に行った映画に、主人公たちがプールで泳ぐシーンがあったのだ。高級ホテルの最上階に備えつけられた屋外プールは、フィクションではなく実在のモデルがあるらしい、と見終わったあとにイレブンが話していたのを思い出す。

「はあ、何だよ、シンガポールにでも行くつもりか」
「それもありだなあ。あそこならマヤちゃんも喜びそうだしね」
「マジか……。マヤも連れて行くつもりなのはありがたいが、オレたちはパスポートも海外へ行く金もないぞ」

 これまで兄妹ふたりで慎ましく生きてきた身として、映画に出てきたような場所で豪遊するなんて夢のまた夢だ。妹のマヤは確かに喜ぶだろうが、かなしいかな、現実問題は厳しい。

「せめて市営のプールで我慢してくれよな」
「ボクはカミュと行けるならどこでもいいけど……でもぜったい人の目集めちゃうなあ……」
「? ああ、お前みたいな顔がいいやつが来たら、ざわつくだろうなあ」
「も〜〜〜ボクじゃないよ、君だよ!」
「オレ……?」

 スーパーの袋を揺らしながらイレブンが声高に訴える。その袋には確か割れ物は入ってなかったよな、大丈夫だよな。

「カミュはいつだってかっこいいけど、水に濡れていつもよりしなしなになってる髪の毛をそっとかきあげたりなんかしたら周りが大変なことになっちゃう……! ボク以外が見ちゃだめなやつ!」
「……たくましい想像力だな、相棒」
「ハッ、そうだいいこと思いついた! カミュ、いつかふたりで住むところはプール付きのおうちにしようね。そうしたらみんな呼んで遊ぶこともできるし、ふたりきりでも遊べるし。ボクがんばって建てるよ!」

 楽しみだね、カミュ。まるで明日の約束のようにそう言われてしまった。

 プール付きの家なんて、いかにも金持ちという感じでまったく身の丈に合わないんだが。いやそういう問題じゃない。何がどうしてそうなったんだ。先走りすぎじゃないか。ていうかお前が建てるのか?

 でも柔らかな見目と物腰に反して、意外と頑固だったりするイレブンがそうと決めたらそうなるし、オレは遠くない未来にそんな家に住むことになるんだろうな、こいつと一緒に。

 そうだな、楽しみだな。明日の献立でも決めるような調子で、そう頷いた。




某探偵映画を見てつい…
190421

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