フライハイト | ナノ


一歩階段を上がる  





「あぁ…最悪だわ…」

トイレの鏡で燃えた毛先を見ながら呟いた。ブレーズに怪我をさせたことも、髪が燃えてしまったことも。
腹の虫が鳴って大広間に向かおうとすれば、目を真っ赤にして泣いていたグレンジャーが個室から出てきた。グレンジャーは私が居たことに気づいてなかったようでかなり驚いて、涙だらけの瞳を急いでガウンの袖で拭いた。

「…それじゃあ目が赤くなってしまうわ」

ポケットからハンカチを取り出してグレンジャーに差し出した。グレンジャーは驚いたようにしてありがとうと告げて受け取った。

「貴方って結構優しいのね。」

「泣き声が耳障りなだけよ。グレンジャーだってお腹が空いたでしょ、大広間に行きましょう。」

大広間には好物のカボチャが待っている。トイレを出ようとした時、悪臭が鼻をついた。同時に低い唸り声も聞こえた。ドアを開けた目の前には灰色の木の幹のような太さのなにかとコブだらけの足があった。

「な…」

「キャァァァアアア!!!!!」

私より先に上を見上げたグレンジャーは甲高い悲鳴を上げた。巨体はそのまま私達の方に近づき始めた。奥の壁に張り付きながら上を見上げればその巨体はトロールそのものだった。何故こんなところにいるのか。
何か、何かしなければと思うが恐怖で体が動かなかった。あのグレンジャーでさえも恐怖で縮こまっていた。

「ロコモーター モルティス!足の動きを縛れ!」

杖を出して唱えればトロールの動きは停止した。本で読んだ呪文で一度も使った事が無かったがまさか成功するとは。

「グレンジャー!逃げるわよ!!」

グレンジャーはまだ怯えきっていて動こうとしなかった。腕を引くが腰が抜けているようだ。

「キャッ!!!」

ドガガガガとトロールは手にしていた巨大な棍棒で次々と洗面台をなぎ倒した。破片が飛び散り、頬をかすった。足を縛っているだけで足以外は動かせるのだから余り意味はなかったかもしれない。それに怒らせてしまった。
その時、ポッターとロンが現れた。

「こっちに引き付けろ!!」

ポッターが叫ぶとロンが破片をトロールに向かって投げつけた。

「あ、足の動きを縛ってるからは足は動かせないわ!!」

私が叫ぶと二人はわかったと言うかのように頷いた。どうすればいいか、何か、何か呪文を。物を投げつけてくるロンを鬱陶しく思いトロールは体を捻ってロンに向かって棍棒を振り上げた。

「ロン!!!!」

「えっと、えっと…インペディメンタ!妨害せよ!!」

トロールの動きは一時停止した。その隙にロンはその場から離れ、次の瞬間先程ロンが居た場所に棍棒が打ち付けられた。床は粉々になって呪文が効いていなかったらと考えるとぞっとした。
するとポッターは何を考えたのかトロールの首元に飛び付いた。ポッターが持っていた杖はトロールの鼻の穴に刺さり、トロールもこの痛みには耐えれなかった。トロールはポッターを引き離そうと棍棒を振り上げた。

「ポッター!!!」

「あぁああ…えっと…ウィンガーディアム・レヴィオーサ!」

ロンが唱えると棍棒はトロールの手から離れて浮遊した。何が起こったのかトロールが上を見上げた途端、頭上に巨大な棍棒が落下した。これは大損傷だったようでトロールはドサッとうつ伏せに倒れた。

「これ…死んだの?」

「いや、ノックアウトされただけだと思う」

「はっ……は…」

緊張が解けて私はその場に座り込んだ。心臓の音が今は鮮明に聞こえる。かなり速かったようだ。ポッターがトロールの鼻に刺さった杖を引っ張り出していると足音が聞こえた。マクゴナガル先生にスネイプ先生、クィレル先生が慌ててやって来た。クィレル先生はトロールを見て怯えて座り込んでしまった。スネイプ先生はいつものように落ち着いていて、マクゴナガル先生はいつもより怒っていた。

「一体全体貴女方はどういうつもりなのですか」

その声は怒りに満ちているようだった。私はよろよろと立ち上がった。

「殺されなかったのは運がよかった。寮にいるべき貴女方がどうしてここにいるんですか?」

寮にいるべき?大広間でごちそうを食べているのでは無かったのだろうか。私はマクゴナガル先生の言うことが呑み込めなかった。

「マクゴナガル先生、聞いてください。」

「ミス・グレンジャー!」

「私がトロールを探しに来たんです。一人でやっつけられると思いました。本を読んでトロールについてはいろんなことを知っていたので。」

グレンジャーはやっと立ち上がったかと思うと嘘を告げだした。状況が理解出来ない。グレンジャーが先生に向かって嘘を?

「ミーリックはトロールを誘き寄せていた時、偶然居合わせてしまって…けど3人が居なかったら私、今頃死んでいました。ハリーはトロールの鼻に杖を差し込んでくれて、ミーリックはトロールの足を縛り、ロンを守ってくれて、ロンはトロールの棍棒でノックアウトしてくれました。誰かを呼びにいく時間が無くて、私は殺される寸前で…」

グレンジャーの話をマクゴナガル先生は信じるしかなかった。グレンジャーは優等生だ、嘘なんてつくはずがない。たった今ついているが。マクゴナガル先生は私達を見つめた。

「ミス・グレンジャー、なんと愚かしいことを。どうしてそんなことをしようと考えたのですか?」

グレンジャーは答える事が出来ずに項垂れた。

「ミス・グレンジャー、グリフィンドールから五点減点です。貴方には失望しました。怪我がないならグリフィンドール寮に帰った方が良いでしょう。」

マクゴナガル先生が告げるとグレンジャーはトイレを出ていった。マクゴナガル先生は次は私達を見た。

「先程も言いましたが貴方たちは運がよかった。でも大人の野生のトロールと対決できる一年生はそうざらにはいません。一人五点ずつあげましょう。ダンブルドア先生に報告しておきます。帰ってよろしい。」

点を貰える事なんて初めてだった。とんでもないことに巻き込まれたが少し嬉しかった。トイレを出ようとすれば、マクゴナガル先生に引き留められた。

「ミス・ミーリック、頬を怪我していますね。医務室に行った方が良いでしょう。」

「掠り傷程度です…」

「我輩が連れていきましょう」

驚いた事にスネイプ先生がそう告げた。マクゴナガル先生が任せましたと言い、仕方なくスネイプ先生と医務室に向かった。お腹が空いていたので早く大広間に行きたかったのだがだいぶ先になりそうだ。

「スネイプ先生、トロールが出たことは生徒皆知っていたのですか?」

「あぁ、生徒は一時寮に帰った。」

なるほど、これで辻褄が合う。ポッターとロンは寮に居なければならなかったはずなのにグレンジャーを助けに来たのだ。彼らはグレンジャーを助け、グレンジャーは嘘をついて彼らを助けた。やっと理解出来た。

「ミーリック、君は何故あの場所に居たのだ」

「何故って…グレンジャーの言った通り偶然トイレに居合わせたんです。私はまだ大広間に行っていませんでした。大広間に向かおうとすればトロールがやって来て…私は巻き込まれた立場です。」

ちょっと怒り気味にスネイプ先生に話した。知った事を聞かれるなんて、疑われているのだろうか。スネイプ先生を睨むように見つめれば、スネイプ先生は何も返す事なく歩いた。
ああ、お腹が空いた。ちょうど腹の虫が鳴ったが、スネイプ先生は何も言わずにいてくれた。

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