白い石造りの町並みは日の光に照らされて、少し離れた場所からも輝いて見えた。
 北側に背負う蒼い山々の所為で、その白さはいっそう際立つ。
 中でも、その山の裾野に建てられた尖塔の目立つ城は、ヴァジェットやアータルなどと比べても一際美しく、誇れる物だ。

 街中を大きく迂回し、城の東に位置する竜舎に降り立つ。
 いつもなら、街中だろうが気にしないのだが、今回は連れがある為、あまり目立つ場所は飛びたくなかった。
 心を閉じていても、そのくらいの事は解ってくれるフィンメルに、アドルフはとても感謝している。
 竜を下り、捕虜二人を獄吏に託し、アドルフは寝ている少女をライネに医務室へと運ばせた。
 正体は解らぬ存在ではあるが、一応助けてもらったとも言える為、保護と言う形を取る事にする。
 その後、アドルフは一人で任務完了と、今回起きた事の成り行きを報告すべく、会議室へと向かう。
 会議室は謁見の間の隣にある。
 その謁見の間は、古来、光の神である神竜が入れるようにと、尖塔の先まで吹き抜けになっている。
 尖塔だけなら、有に150mは越える高さがあり、城を建設した当時の技術が全て注ぎ込まれているのだろう事が伺えた。
 謁見の間を横切り、アドルフは樫の木の扉を叩く。
 「どうぞ」と中から低い声が返って来たのを耳にしてから、アドルフはその扉を押し開いた。

 部屋の中は臙脂色の絨毯が敷かれ、右手の壁には大きな世界地図と、左手には大きな窓がある。
 中央にはもちろん、杉で作られた長方形の机と、数脚の椅子があり、各騎士団長が定期的に徴収され、会議を開く。
 今は会議など開かれていないが、深縹色の天鵞絨の窓掛けが開け放たれ、傾き始めた太陽の光が部屋一杯に注ぎ込んで来る。
 一番奥の椅子に、その光を受けてキラキラと煌めく、黄金の髪の男がゆったりと腰を落ち着けていた。
 その男、シドニウス・レオンハルトは、何故かしっかりとした執務室が他にあるのにも拘わらず、この会議室で執務を熟す事が多い。
 わざわざ自ら書類や資料を持ち運び、机に並べる。
 執務室の窓が狭いのが嫌だとの弁だが、果たしてそれだけが理由なのかは黙して語らない。
 アドルフが近付くと、レオンハルトはその群青色の瞳を持ち上げ、顔を綻ばせた。

「帰ったか。待っていたぞ!」


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