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現れたのはノックスと同じ銀の髪の男で、線は細そうだが背が高い。 ポカンとしているノックスは眼中に無いのか、男は真っ直ぐ紫の瞳でアレスを見据えながら近付く。
「貴方なお話を聞かせて頂ければと、私ネルソンは常々思っておりました。どうぞ、中へ」
細面な顔に、朗らかな笑みを浮かべ、男はアレスを部屋の中へと招いた。 当のアレスは全く表情を見せず、引き締まった顔で軽く頷く。
「アレス、陛下って……」
「後で話すよ。今は中へ……少しでも広い場所へおいで下さい」
招き入れられた部屋はノックスすら入った事がなく、初めての場所に目をキョロキョロさせていた。 本がきっちり整理して棚に納められており、その整然とした様子はとても怪しげな魔術を研究しているようには見えない。
「お茶でもいかがですか?」
「いや、結構」
アレスはネルソンの誘いを冷ややかに躱し、鋭い視線を辺りに向けている。 今までおっとしと見せていたのは演技だったのかとノックスは少し残念そうに心の中で呟いた。
「それで、陛下は何故このような場所へいらっしゃったのですか? 我が愚弟が何かいらぬ事でも申し上げたのでしょうか」
ぐっと剣の柄に手が伸びたノックスを、ネルソンに背を向けたアレスがこっそり止め、小さく首を横に降る。 その顔には何か考えがあるようで、ノックスは手を下ろした。
「ラートシュラッヒ卿、貴方が私から聞きたがっている話に関係があります。貴方が聞きたいのは……我が父、バルト・カーンが研究していた魔術奥義の事でしょう」
アレスは背を向けたまま、本棚に歩み寄り、一冊を手にしてパラパラとめくる。 その背中にネルソンの視線が注がれた。
「そうですね。陛下のお父上の研究にはとても……とても興味があります。ですが勘違いなさらないで下さい。私はあくまでも知識の一つとして知りたいだけだと言う事を」
ネルソンは微笑みながら、物腰を柔らかに言葉を続ける。 だが、アレスは手にした本を力任せに閉じ、踵を返す。 ← →目次 |