この声はノックスではない。令華だ。
 私は眉根を寄せて振り返る。
 するとそこにはノックスと肩を並べて酒を手にする令華の姿があった。

「令華? こんな所で何をしている」

 声を掛けると、令華は視線だけをこちらに向けた。
 彼女との付き合いは長いのだが、未だに子供扱いをする事がある。今の目は、そう言った時の目だ。
 私は、流石にむっとした表情を浮かべたが、彼女はくすくすと笑い出す。

「今日は二月十四日。彼女はね、今日と言う日の為に、貴方へのチョコを作ってきたのよ」

 令華は笑いながら話始め、私は制止する事なく続けさせた。

「私が少し前、タイ・ウォルの一部で面白い風習がある事を発見して、カフェンに教えてあげたの。それで……」

 タイ・ウォルとは全ての世界と隔離された世界で、全てを創造する者がいるとされる場所だ。
 令華は言葉を残し、透明な液体を一口啜る。

「――それで、彼女はその風習に従って今日、貴方にチョコを贈ったの。その風習はね、好きな人に甘い物……とくにチョコレートを贈るって言う、変な風習なのよ」

 言って令華は乾いた笑いをたてた。

「貴方は調度一ヶ月後に返事をしなくちゃならない。……ま、あの子の場合、答えを聞く前に解っていそうだけどね」

 何故だろう。
 “返事をしなくちゃならない”と言う令華の言葉が頭から離れなかった。
 その後すぐに令華は姿を消し、ノックスと二人で酒を飲む事になったのだが、奴の嫌味も耳に届く事は無く「面白くない」と私は城に強制送還された。

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