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私は促されるまま箱を開き、中を覗き込む……すると、中にはこれまた小さな一粒のチョコレートが入っていた。
「これを、私に?」
尋ねると、カフェンは小さく頷き「食べて下さい」と付け加えた。 角砂糖と同じ大きさの、小さなチョコレートを、私は一息で口の中へと放り込む。
味は、苦い。 だが、徐々に中から甘いヘーゼルナッツのクリームが舌の上に広がり始め、チョコレートの苦味との調和が取れていく。 そして最後に、どこぞの銘酒が甘さに麻痺した舌を焦がす。
暫く味の変化を楽しんで、何も言わなかった私を心配したのか、カフェンが顔を覗き込んだ。
「口に合いませんでしたか? 令華さんにも味を見てもらったのですけれど……」
そうか。 この前令華の漂わせていた香は、この酒の香だったんだ。 私はカフェンに笑顔を見せながら、ピリピリとした酒の感触を飲み干した。
「美味しかったとも。この中に入っている酒が……何とも言えないな」
「私の故郷、アリスの隠れた銘酒です。あの街でも酒造りをしているのですよ」
故郷を語るカフェンの顔は少し誇らしげで、目が細くなる。
「一つ聞きたいんだが、何故私にチョコなんだね? 嫌いでは無いし、君からならなおさら嬉しい事なんだが……」
私が尋ねると、カフェンの動きはぴたりと止まった。 あぁ、聞いてはならない事だったのか。
「気まぐれ……そう。気まぐれです。陛下が嫌いな物ではなくて、本当に良かった……私はもう休み時間が終わるので、帰らなくては」
早口で言うと、彼女は席を立ち、すたすたと店を出て行った。
「お前って奴は、本当に女と言うのが解っとらんな」
ノックスの言葉が虚しく響く。
「やっぱり。あの子はそのチョコの意味を話さなかったか」
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