令華と別れた後、城に戻った私は溜め込んでいた執務を熟す為、二日ばかり缶詰となっていた。
 晴れて缶詰の蓋が開かれると、私は久し振りに友人と会う為に一路、街の酒場へと足を向ける。
 昼間から酒を飲むとは良い御身分だと、辺りからは思われるだろうが、彼も私もここ数日間酒とは縁遠い生活をしていて、久し振りの酒になる。
 彼が無事に帰還した祝いでもある。今日くらいは大目に見られても良いだろう。

 港から真っ直ぐ伸びた道が、最初に出会う広場にいつもの酒場がある。
 小洒落た外観とは裏腹に、港が近い所為かいつも海の男達が集まっていて、少々むさ苦しいのが否めない。
 店の奥、一番左のカウンター席に、いつも私の友人は陣取っている。
 がっしりとした巨躯を持ち、そろそろ黄金の髪に白い物が目立ち始めていた。
 歳の頃は四十四。確か私より八つ上だったはずだ。
 いつも大きな剣を傍らに従え、何処から如何見ても“傭兵”と言い切れる身形をしている。
 大きな背中に声を掛けようと、私は右手を上げたのだが、肝心の声は喉の奥で詰まってしまった。
 見慣れた友人の背中の向こう側に、ちらりと見えた、炎のように紅くて長い髪。

「カフェン?」

 私は友ではなく、まず彼女の名前が口を突いて飛び出す事になった。
 葡萄色の軍服を着たカフェンはこちらを振り返り、いつもの優しい笑顔を見せてくれる。

「陛下、お待ちしておりました」

 いつものように彼女の口調は固い。もう少し何とかならない物だろうか……。

「ノックスと一緒とは珍しいね。それよりも、私を待っていたとは?」

 我が友、ノックスがカフェンの隣を譲ってくれたので、私は遠慮なくその席に滑り込む。

「陛下に……渡したいものがあるのです」

 そう言ってカフェンは小さな箱をカウンターに置いた。

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