「もう充分話をしているんじゃない? 貴方も暇じゃないでしょうに」

 そう言いながらも、私と令華は噴水の縁に腰を下ろす。
 さざめく水面には、黒くて長めの髪を後ろで一つに束ねた、紺色の軍服を着込んだ姿の私と、右耳の赤い耳飾りが揺れる令華の姿が映っていた。

 水がさらさらと流れる音がする中、私は唐突に口を開く。

「カフェンを知らないか?」

 その一言に、令華は瞳を閉じて溜息を一つ零す。
 令華がカフェンの事を、あまり快く思っていないのは知っている。
 だからこそ、尋ねてみたかったのだ。

「彼女の事、ね。今さっき顔を突き合わせて来たばかりよ」

 と、以外な答えが返って来た。
 私は首を傾げて令華を見遣り、彼女は横目でちらっとこちらを見ただけで先を続ける。

「色々と、相談に乗ってあげてるのよ。それはそれは良い代物を貰っちゃったから、その見返りにね」

 令華が懐から取り出したのは、見事な細工が施された懐中時計で、手にしながら令華は含み笑いを漏らしていた。
 そう言えば、彼女は時計を集めるのが趣味だったか。
 令華が何かボタンを押すと、その時計はカキン、カキンと小気味好い音を立てた。
 成る程、ミニッツリピーター付きの時計を掴まされて、上機嫌なわけか。

「それで……何の相談なんだ?」

 私が尋ねると、令華はニヤリと意地悪そうに微笑んだ。

「今は言えないわ。多分近々彼女から話してくるでしょうよ……これ以上の話しを私から聞きたいなら……」

 右手を「よこせ」と言わんばかりに差し出すが、今の私に令華の口を割らせる事が出来る程の時計など、持っているわけがない。
 目端で私に動きが無いのを確認すると、令華はすぐさま手を引っ込め、すくっと立ち上がった。

「ま、すぐに何だかは解るわ。それまで待つのね」

 そう言って、令華は私が瞬きをした刹那に姿を消していた。

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