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ネルソンが指を振って合図すると、蠢く者は二人の武器を取り上げ、主のもとへと運んでいく。ノックスの懐にある短剣だけは何故だか没収されない。 剣を受け取ったネルソンは、小さく文句を言いながら背を向け、蠢く者はしっかり二人の手足を縛り上げる。
「くっそー……テメェ、俺達をどうする気だ」
ノックスは悪態を吐きながらも、内心後ろ手で縛られなかった事を有り難く思っていた。 なんとか令華の短剣を取り出せそうだ。
「闇は、光でしか切れない」
令華の言葉は、武器を取り上げられなければ思い出さなかっただろう。 光がこの短剣の事を意味しているのだと願いつつ、ノックスはこっそりと手を懐へと伸ばして行く。 人肌に温められた暖かいグリップが手に触る。それを握り締め、ゆっくりと外へ取り出す。 すると、音も立てずに鞘だけが懐に留まり、白く輝く刃が現れた。 床に突き刺し、手を縛るロープを切る。 そしてもう一度グリップを握り直し、足のロープも同じように切って立ち上がる。 近寄って来た蠢く者に、白い刃を向けると、影は輝きに照らし出されて薄く消えて行く。 それを見たノックスはニヤリと笑い、次々と蠢く者に刃を向ける。 ニ、三体の姿を消すと、流石に蠢く者は近寄って来なくなった。
「なかなか使えるな、コレ。逃げたあのオバさんに少しは感謝しねぇといけねぇか」
ぽつりと呟いた後、ノックスは一人でネルソンを目指して足を動かす。 背を向けるネルソンの背中は、十も歳の離れたノックスのが大きいと感じる程貧弱で、それでも身長だけはひょろりと高く、何かを唱えるその声は昔のように優しく低い。 「だけど」とノックスは心の中で呟いた。
「だけど、兄貴はもう兄貴じゃない。アンやじぃちゃんを殺した、あの日から……」
力強く足を一歩進めたノックスは、何か硬い物を踏み潰した。 ← →目次 |