「魔女の入れ知恵ですか。ですが彼女は異端者。貴方にお仕えするような人間ではありません」

 先の泥人形よりも少しくぐもった声が低く響くと、黒い闇に一点の明かりが灯る。
 それはネルソンの持つ長杖に宿った光りで、一気に辺りを照らし出す。
 無機質で機械的で暖かみの欠片も無く、いかにも研究室と言った白い壁や床がぼんやりと輝きの中に浮かび上がる。

「私も“異端者”だ。……そして貴方も。ラートシュラッヒ卿。その罪は死を以て償わなければならない」

 言いながらアレスは二振りの剣を抜き、ノックスもそれに倣う。
 だがネルソンは構わず、高笑いを響かせた。

「私も陛下も異端者だと申されるのか。それならばあの魔女も、陛下ご自身も、何故罰を下されぬのか。罰を下す神など、端から存在せぬからに外ならない。それならば異端などと言う言葉は意味を成さない!」

「私が言っているのは、神に対しての異端じゃない。人間としての異端だ」

 アレスはゆっくりと、剣を構えながら言う。

「貴方には聞きたい事があります。その術を何処で手に入れたかを……」

 アレスはその黒い瞳で鋭くネルソンを貫きながら、矢継ぎ早に訊く。
 だがネルソンは気にも止めず、背を向けて部屋の奥へと足を動かす。

「どうぞ。私の研究をご覧になって下さいな。そうすれば私の術が全て解る事でしょう」

 言われて自然に足を動かそうと力を入れる。だが、二人の足は言う事を聞かない。
 目を遣れば、そこには影から伸びた黒い腕が、しっかりと自分の足を握っているのが見えた。
 視線を戻せば、物影から次々と黒い人型の蠢く者が現れ、しがみついてくる。
 剣で払おうとも、実体がないらしく、何度切ってもすぐに再生してしまう。

「そう。動けるのなら全てお話しましょう……動けるのなら、ね」

 再び、ネルソンの高笑いが部屋中に谺した。

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