「ノエル、ノエル!起きろノエル!!」
何やら興奮気味の声が朝一番に襲ってきて、ノエルは低く唸り声を上げた。低い声なだけまだマシかもしれないが、こうも騒がれては耳に障るというものだ。それも、こんな朝に。
「なんだようっせーな黙れ」
「機嫌悪いっ!いや分かっているが」
そうだ。ノエルの寝起きの悪さをイヴァンは知っているはずだ。だというのに、こんなに騒がしく起こすとは一種の嫌がらせか、と寝起きの目付きの悪さでいつもよりもきつく睨んだのだが、全くダメージを与えられていないらしい。
まだ寝ていたいのだが、相手しなければいつまでも騒いでいそうなので、大きく溜息を吐いてむくりと起き上がった。視界に入ってくる跳ねた髪を手で梳く。寝起きというのは、これだから良くない。
「んで、何だよ。くだんねー用事だったら殺す」
「とりあえず、着替えてくれ」
寝巻きのままではいけないとは一体どんな用事だ。内心で思いつつも、起きてしまった以上、どうせ着替えなければならない事には変わらないので、のっそりとした動作で服に手を掛けた。
「ふざけんな殺す」
で、着替えたのだが、その後連れて来られたのは外だった。やけに寒いと思っていたのだが、どうやら雪が降っていたらしい。さして珍しくも無い天候に叩き起こされて、寒い外に連れてこられたのだから元より悪かった機嫌も一気に急降下するというものだ。雪の日なんて、家に引きこもってぬくぬくと過ごすに限るというのに。
「まぁ、そんなに怒るな。雪だぞ雪!」
目を輝かせて降り注ぐ雪に手を伸ばしているイヴァン。雪にテンションが上がるなんて子供か犬かと呆れながら、寒さに腕を摩った。イヴァンは寒くないのかもしれないが、人間にとってはこの寒さは堪えるのだ。
身を固めて寒さを凌いでいたノエルだったが、突然、頭に軽い衝撃が走った。ずる、と頬を滑り落ちてくるものに手を伸ばすと、それは真っ白な雪だった。
「おぉ、当たった」
無邪気に喜んでいるイヴァンに、口元が引きつった。
「当たった、だぁ……?」
積もっている雪に手を伸ばし、握りつぶすくらいに力を込めて歪な丸い形を作る。整えようと思ったわけではないので、細長い形になってしまったのだが、そんな事に構っているくらいの余裕は無い。
「立ち止まってんだから当たり前だろくそ魔王!!」
イヴァンに向かってそれを投げたが、呆気なく避けられて舌打ちした。本人的には勢いよく投げたつもりなのだが、スピードはそこまでなかったらしい。それに、相手は投げてくる事を予測していたのだ。避けられて当たり前だった。
そんな事は分かっていた。が、当てられたままでいるのはどうにも気分が悪い。
「避けんなこら」
「嫌だ。雪合戦、とはそういう遊びなのだろう?」
不適に笑ってみせるイヴァンにとうとうぶち切れたノエルは、手に持てるだけのありったけの雪を掴み取った。
勿論、体力の無いノエルが叶うはずも無く。雪まみれになったノエルが翌日に風邪を引いたのは言うまでも無い。
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