ダイアゴン横丁(4)



 スイを再び肩に乗せ、リンは、オリバンダーのお辞儀に送られて、外へ続く扉へ向かう。


 ところで、あの試し済みの杖の山はどうするのだろう? ふと疑問に思ったが、すぐに彼が魔法使いだと思い当たり、杖を一振りして元に戻すのかと納得する。


 魔法が使えなかったら大変だよなぁ、いやその前に、魔法が使えなかったら、あんなに箱を積んだりしないか。


 そんなことを考えながら扉を開けたところで、誰かと鉢合わせて、リンは相手にぶつかってしまった。


 衝撃が強く、後ろに倒れそうになる。だが、大きな手が背中に回され、リンの体を支えた。


「おっと! すまんな」


「あ、いえ、こちらこそ、すいません」


 顔を上げると、一面に黒いコート。もう少し顔を上に上げて、ようやくリンは相手と目を合わせた。


 真っ黒な、黄金虫のようなキラキラした目が印象的な、とても大きな男だ。並の人の二倍はある。ボウボウと長い髪、モジャモジャの荒々しいひげのせいで、顔はほとんど見えない。


 にもかかわらず、なぜだかリンは ――― 元々リンはあまり何かを怖がったりしないのだが ――― 怖いとは思わなかった。


「大丈夫か?」


「はい、無事です。ありがとうございました」


「いや、礼には及ばんよ」


 リンをしっかりと立たせ、男は店の中へ入っていく。一気に開けた視界に小柄な少年が映った。どうやら、大男の後ろにいたらしい。リンは少年とパッチリと目が合った。


「……あ、えっと、大丈夫だった?」


「え? ……ああ、うん」


 ぎこちなく声をかけられて、リンは少しだけ驚いた。まさか話しかけられるとは思わなかった。


 大丈夫だとリンが返事をすると、少年はそっか、と笑った。緊張しているのだろうか、少し声が上擦っている。でも、なんだか嬉しそうだった。まるで会話が成立したこと自体に喜んでいるみたいだ。


「君も、その、ホグワーツの子なの?」


「今年入学するの」


「本当? 僕もなんだ!」


 少年は嬉しそうに声を上げて、リンを見つめた。


「ねえ、君は……」


「おーい、ハリー! 何しちょる!」


 少年が何か言おうとしたが、大きな声に邪魔をされた。


 リンが振り返ると、さっきの男が扉から顔を出して少年を見ていた。この少年はハリーというらしい。


「……君、呼ばれてるみたい」


「ああ……うん」


 残念そうな表情を浮かべて、少年は「じゃあ……またね」とリンに手を振って、店の中に消えていった。


 その後ろ姿を見送って、リンは踵を返した。母を探さなければ。


 歩き出したリンの肩の上で、スイが、オリバンダーの店を見つめていた。



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フラグが折れた



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