ダイアゴン横丁(3)



「では、ヨシノさん。これをお試しください。楓の木にドラゴンの心臓の琴線。二十四センチ、振り応えがある。手に取って振ってごらんなさい」


 リンは杖を取り、軽く振ってみた。ぶわりと老人の周囲を風が取り巻く。オリバンダーは、あっという間にリンの手からその杖をもぎ取ってしまった。


「マホガニーに一角獣のたてがみ。二十三センチ、よくしなる。どうぞ」


 リンは試してみた……しかし、振り上げるか上げないうちに老人がひったくってしまった。すごい観察眼と反射神経だ。


 思わず感心してしまうリンの見ている前で、オリバンダーは首を振って、ブツブツ呟きながら杖の入った箱の山を漁る。


「だめだ、いかん ――― 次はトネリコ材に不死鳥の羽根。三十二センチ、バネのよう」


 リンは、杖を差し出されるまま次々と試してみた。いったい、オリバンダー老人は何を期待しているのだろう……リンにはさっぱり分からない。


 試し終わった杖の山が、古い椅子の上にだんだん高く積み上げられていく。最初は興味津々で食い入るように眺めていたスイも、さすがに退屈になったらしく、小さく欠伸をしていた。


 一方、老人は、棚から新しい杖を下ろす度に、ますます嬉しそうな顔をした。


「難しい客じゃの。え? 心配なさるな。必ずやピッタリ合うのをお探ししますぞ。……さて、次はどうするかな……おお、そうじゃ……黒檀に不死鳥の羽根、二十八センチ、良質でとてもしなやか。じゃが、少し気難しい」


 差し出された杖を、リンは疲れた顔をしながらも手に取った。ふわりと周囲で空気が動いた気がした。


 軽く振ると、杖の先から、白、金、緋色、色とりどりの羽根が出てきた。オリバンダーは「おお――っ」と声を上げた。


「いやはや、素晴らしい。よかった……非常によかった……」


 老人はリンの杖を箱に戻し、茶色の紙で丁寧に包みながら、ブツブツと繰り返した。


「この杖は、作られてから長いことここにあった……今までこの杖が気に入る人が現れなかったでの……あなたの父上と母上も偶然お試しになったが、まったく……いやはや……あなたはきっと、何か偉大なことをなさるのだろう……」


「……いえ、たぶん、何もしないと思います……」


 見つめてくる淡い色の目から逃れるように呟いて、リンは、杖の代金として六ガリオンを支払った。


→ (4)


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