いないのか、見えないだけか(3)



 呆れというか諦めというか、何とも言えない表情でスイが尻尾を振ったとき、ベティが言った。



「どこに馬がいるのよ」


「どこって……この馬車を牽いてるじゃない」


「アンタ頭大丈夫?」


「ベティ、今すぐに口を閉じてリンに謝りなさい」


「黙らせたいのか喋らせたいのか、どっちよ」



 直球なベティの言葉にジャスティンが怒った。眉を吊り上げて言うが、ベティが指摘した通り、少し支離滅裂である。スーザンが宥める中、ハンナがリンを窺ってきた。



「リン? あの、本当に馬が見えたの?」


「厳密には馬じゃないと思うけどね。馬にドラゴンとコウモリを合わせた感じだった。ハンナも見ただろ?」


「私 ――― 私、あの、見てないわ」



 恐々とリンを見つめてくるハンナに、リンはパチクリ瞬いた。同じく自分を見ているアーニーに視線を向けると、彼も首を横に振った。



「ホグワーツの馬車は、馬なしでも走れるんだ。僕の二つ上の従兄がそう言ってた。魔法で動いてるんじゃないかって」


「そんなわけないだろ? だってそれなら、轅〔ながえ〕なんて付ける必要がない。むしろ馬車じゃなくったっていいんだから」


「そりゃ、そうだけど ――― 」



 アーニーは言いよどんだ。彼の表情を眺めたあと、リンは小さく息をついて肩を竦める。スイが見上げると、退屈そうな表情をしていた(取り繕ってるようにスイには見えた)。



「そんなに本気にされると、居心地悪いんだけど」



 一瞬、車内が静かになった。言い合っていたベティとジャスティンまで黙っている。三秒ほど経ったあと、ベティが眉を吊り上げた。



「アンタねえっ、悪ふざけすんじゃないわよ!」


「憂さ晴らしだよ。誰かさんたちが喧嘩ばっかりするんだもの、やってられないよ。これで少しは大人しくなればって思ったんだけど、逆効果だったなぁ」



 余計に騒がしくなった、と溜め息をつくリンに、ハンナたちは安堵したようだった。また他愛もない話をする雰囲気に戻る。


 空気を読んで、上手く誤魔化す。妙な演技力でもって、それを成し遂げたリンを見上げて、スイは尻尾をビシリと振り下ろした。




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