いないのか、見えないだけか(2)




「何ここ。すっごいカビ臭い」


「あら本当……藁〔わら〕の匂いもするわね」



 続いて乗り込んだスーザンが言った。セリフの割に、顔は微笑んでいる。何故そんなに余裕が? と一同(リン以外)は思ったが、何も言わないことにした。

 次にハンナが馬車に乗る。アーニーがあとに続く中、リンは再び馬らしきものへと目を向けていた。


 よっぽど気になるんだな、とスイが呆れていると、ジャスティンがソワソワとリンを見た。馬(仮)を眺めるリンを見つめるジャスティン ――― その全体を視界に入れるスイ、という変な構図が出来上がる。何だこれ、とスイは思った。


 沈黙に満ちた空間を、馬車から顔を覗かせたアーニーが破った。



「リン、ジャスティン、何してるんだ? 早く乗ってくれよ。あとが詰まってしまってるよ」


「……ああ、うん」



 後ろに続いている他の馬車を一瞥して、リンはようやく乗り込んだ。ジャスティンが最後だ。二人が座ると、馬車が動き出した。



「なんで乗り込まなかったのよ? 匂いが嫌だったとか言わないでよ、アタシだってそうなんだから」



 スイを膝の上へと移動させたリンに、一番奥に座っているベティが聞いた。その言葉で、彼女がどことなく不機嫌そうにしている理由が分かった。スーザンが苦笑する。リンは普通に笑った。



「嫌だったら歩いてるよ。君もそうすれば?」


「イヤよ」



 噛みつくように答えるベティに、リンは肩を竦めた。本格的に機嫌が悪い。刺激しない方がいいかと判断して、外へ目を向ける。馬車が隊列を組んで道なりに進んでいるのが見えた。



「馬を観察してたんだ」



 リンが、無意識にスイを撫でながら言うと、みんなが沈黙した。ハンナやスーザン、アーニーが、顔を見合わせる。ベティはポカンと口を開け、ジャスティンは目を丸くしていた。



→ (3)


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