吼えて始まる新学期(1)



 新入生の組分けが無事に終わった日の翌朝、ハンナと大広間に入ったリンは、空いている席を探して通路を歩いていた。

 隣のグリフィンドールのテーブルでは、ハリー・ポッターとロン・ウィーズリーがみんなに……ハーマイオニー・グレンジャーやパーシー・ウィーズリーなどの一部を除く面々に、明るく挨拶をされていた。

 噂によると、彼らは昨日ホグワーツまで、魔法のかけられた車を飛ばして ――― スピードを、とかいう意味ではなく、文字通りに ――― やってきて、かの有名な「暴れ柳」に突っ込むという、とても感動的な到着をしたらしい。どの辺りが感動的なのか謎だが。



「やあ、リン、おはよう」


「ハリーのこと、聞いてるかい?」



 噂の二人を視界に入れないよう歩いていたリンを、ウィーズリーの双子が引き止めた。片割れは、リンの手まで握っている。



「……おはよう、二人共。フレッド・ウィーズリー、昨日のことは聞いてるし逃げないから、手を放してくれない?」



 眉を顰〔ひそ〕めてリンが言うと、双子(と彼らの友人のリー・ジョーダンまで)が、ポカンと口を開いてリンを見つめる。

 間抜け面だとリンが思って見ていると、フレッドが、リンの手を握る力を少し強めた。



「リン、君、僕らの区別がつくのかい?」


「……たとえ双子だとしても、そもそもは別々の人間なんだから、見分けくらい普通つけられるでしょう?」



 当たり前のように言うリンに、リーが「すっげえ!」と歓声を上げた。



「なあ、どうやって見分けてるんだ?」


「え……いや……そんなこと聞かれても……」



 直感的に、パッと分かるものなので、どうとも教えようがない。

 苦し紛れに「雰囲気とか?」と適当に答えたと同時に、グリフィンドールのテーブルのどこかから、爆発かと思うくらいの怒鳴り声が響いてきた。誰かが「吼えメール」を受け取ったらしい。

 響いてくる女性の声に、双子が、顔を見合わせて肩を竦めた。


 みんなの意識が「吼えメール」の方に向いていたので、リンはハンナに目で合図して、自然な流れでフレッドの腕から逃れ、少し先の空席へと足を進めた。

 ちょうど、スプラウトが、ハッフルパフ生に新しい時間割を配っているところだった。彼女から受け取ったそれを確認すると、今年最初の授業は、グリフィンドールと合同で薬草学だった。




**

 朝食を終えたあと、リンとハンナは、城を出て温室へと向かい、スプラウトを待った。

 少しして、彼女が大股で芝生を横切ってきた。腕一杯に包帯を抱えている。彼女の背後には、枝のあちこちに吊り包帯がされた「暴れ柳」が見えた。なかなか重傷のようだ。



「みんな、今日は三号温室へ!」



 ところで、何故ロックハートが彼女の隣に? リンが考えていると、スプラウトは不機嫌そうに生徒に指示を出した。普段は温厚な彼女が、珍しい……その理由は、すぐ明らかになった。



「ああ、ハリー! 君と話したかった ――― スプラウト先生、彼が少し遅れても、お気になさいませんね?」



 ロックハートはそう言うなり、スプラウトの返事も聞かないで、ハリーを連れていってしまう。

 どう見ても「お気になさっている」様子のスプラウトは、ぎゅっと顔を顰〔しか〕め、鼻を鳴らした。



→ (2)


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