不穏な始まり(13)




「あいつが他人の話を聞くわけがねえ……聞いたところで、まともに理解を示すような奴か? え?」


「だけど、他に方法がない! どうしろって言うんだ? リンを姉さんから引き剥がせって? そうしたら、あの子は一人になる!」


「父親はいないの?」



 ロンが聞いた。ハリーは咄嗟にテーブルの下でロンの足を踏んづけたが、発言は取り消せない。

 ヨシノ氏の纏う空気が、さらに重くなった。



「リンは父親について一切知らない……俺らは、リンに彼の話はしないと決めている」



 ウィーズリーおばさんの顔が恐ろしいことになったので、ロンはついに、もう喋らないことを決めたようだった。



「………姉さんは難しい人だよ……」



 頭を抱えて、ヨシノ氏が呻いた。



「基本的に何かに興味を示すことがない………一度、何かのきっかけで興味を惹かれれば、とことん意識を向けるさ。だけど反対に、興味がないものには全く意識をかけない………。知ってるだろ、ハグリッド………姉さんの世界は、自分と魔法薬とあいつが中心で、あとは少しだけ。あの人は、娘にも、兄弟や両親にも、大して関心を持ってないんだ」


「そんなこと ――― 」


「ハーマイオニー、事実だ」



 ハグリッドが首を横に振って言ったので、ハーマイオニーは息を呑んだ。ハリーは胸くそ悪さを感じた。


 ハリーだって、ダーズリー一家から無視されることが多々あるが、ハリーだって彼らのことが嫌いだから、多少気が滅入るものの、苦しくはない。

 だけど、リンの方はどうだ? リンは実の母親からそんな扱いをされている……一番必要としている存在から。

 生きていて、そばにいるのに、想いは一方通行……それはなんて哀しいことなんだろう……。ハリーはそう思った。




 痛いほどの沈黙の中、ヨシノ氏は項垂〔うなだ〕れていた。横ではスイがしょげ返ったままだ。


 不意に、ハリーたちの座っているテーブルの周りで風が吹いた。ヨシノ氏の肩がピクリと揺れる。

 室内で、しかもこのテーブルだけを取り巻くように風が吹くなんて妙だぞ、とハリーが思ったとき、誰かの声がした。



→ (14)


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