不穏な始まり(9)



「君の飛行技術には、目を瞠〔みは〕るものがあった! あの、流れるような動き! まるで、箒というより風に乗っているみたいだった!」


「遠目から見てるとそう見えるのかもしれませんね」


「方向転換、ターンの優雅さ! 空を舞っているようだった!」


「遠心力とか色々利用してるだけの、ただの力技ですよ」


「何と言っても、驚くべきは、あの速さだ! 学校にある箒なんて、ほとんどが使い古しの中古品で、あまり性能は良くない。空気抵抗が強く、大した速度は出せない……」


「中には良いものもあると思いますけど」


「それにも関わらず、君の飛行はかなり、いやとても素早かった。群を抜いていた」


「周りの子たちが、飛行が苦手でしたし」


「俺は感動した ――― まさに、空を飛ぶために生まれてきた子だと」


「どんな子ですか、それ」


「そして俺は確信した。これはもう、クィディッチに勧誘するしかないと」


「いや、私、ハッフルパフ生ですからね?」


「君は優秀な選手になる ――― そうだな、チェイサーかシーカーなんてどうだ?」


「あの、せめて話聞いてくれませんか?」



 演説じみたものをぶち上げているウッドに、リンは力なく言った。

 だが、予想通りというか当然の流れというか、ウッドは聞いていないようだった。今度は「もしチェイサーになるんだったら ――― 」と心得的なものを語り出している。


 リンは諦めて、勝手に話をさせておくことにした。

 ふう、とついた溜め息さえも、ウッドの言葉に絡みつかれて、重さに耐えられず地面に落っこちたような気がした。


 しかし、ここまで人の話を無視し切るとは、中々の曲者〔くせもの〕だ。もはや一種の才能である。

 もし自分が第三者として会話を聞いていたなら、彼のスキルに感嘆していただろうが、当事者なので、困惑しか生まれない。


 ……どうしたものか。


 次にシーカーとしての心得を声高に論じているウッドを、ぼんやりと眺めながら、リンは考えた。


 ある意味、ジャスティン・フィンチ-フレッチリーより性質〔たち〕が悪いかもしれない………いや、ウッドの方がまだマシだ。リンは思い直した。

 ウッドの根底にあるものは、クィディッチに対する深く熱い愛だ。なので、何もリンだけが頭を悩ませられているわけではないはずだ。

 しかしジャスティンの方は、そもそものベクトルが、リンにしか向いていない。ということは、リンは彼から逃げられないというわけだ。なんと面倒な。


 リンが友人に対する憂鬱を感じたとき、タイミング良くウッドが話を切り上げた。



→ (10)


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