不穏な始まり(8)



「確か、話すのは初めてだったよな?」


「はい」



 通行人の邪魔にならないように道の端に寄ったところで、ウッドが切り出した。それにリンは頷く。

 話すどころか、会うのも初めてだ。学年に加えて寮まで違うと、全くと言っていいほど接点がなくなる。



「でも、俺は君のこと、結構知ってるよ。よく人から聞くんだ」



 そういえば従兄とも中々会えていないな、と思考を妙なところへと飛ばしかけていたリンだったが、ウッドがレスポンスを繋げてきたので、意識のベクトルを修正した。



「そうなんですか?」



 リンの問いに、ウッドは首肯した。リンは、何とも形容し難い複雑な顔をした。いったい、誰がどんな話を吹聴してくれているのやら。

 知りたいが、知らない方がいいのかもしれない、と思い直すリンの心情など知らないウッドは、これまた爽やかに笑う。こんなに短い間に、どうしたらそう何度も笑顔を浮かべられるのか、リンには疑問である。



「それに俺は、聞くだけじゃなくて、君のことを見てもいたんだ」


「………そうなんですか?」


「ああ。去年、俺が魔法史の授業を受けてるとき、君は飛行訓練をしていたんだ」



 よく窓から見てた、と言うウッドに、リンは「ああ、なるほど」と相槌を打った。

 いや真面目に授業受けろよ、などとは言わない。魔法史の授業中なら仕方ない。あれは寝るか内職をするための時間であるようなものだ。



「俺は、君が飛ぶのを見ていた。そして、思った」



 ここでウッドは、リンの目を真っ直ぐに見つめてきた。それを受け止めたリンは、彼の目にチラチラ輝く光を認めた。

 ……あ、めんどくさいことになりそう。そうリンが思ったと同時だった。



「君は、素質がある。クィディッチの選手になるべきだ」


「勘違いだと思われます」



 さらりと流そうとしたリンだったが、ウッドには通用しないようだった。「勘違いなわけあるものか!」と目をかっ開いて、リンの方へと詰め寄ってくる。あまりの勢いに、リンは一歩下がった。



→ (9)


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