不穏な始まり(3)



**


 ハリー・ポッターは辟易していた。


 これはいったいどういう状況なのだろう……。ハリーは考えた。フローリシュ・アンド・ブロッツ書店へと入るまではよかった。そこでサイン会を開いていたギルデロイ・ロックハートがハリーに気づき、声を上げるまでは。


 何が何だか理解できないうちに、ハリーはロックハートに腕を掴まれ、彼と並んだ写真を撮られ、彼の全著書をプレゼントされていた。


 本の重さでよろけながら、ハリーはなんとか人混みを掻き分け、店の隅に逃れる。そこにはジニーが一人立っていた。ハリーは、彼女の足元に置いてある大鍋の中に、本の山を落とした。


「これ、あげる。僕のは自分で買うから」


「いい気持ちだったろうねぇ、ポッター」


 誰の声だかすぐ分かった。ウンザリと振り返れば、予想通りドラコ・マルフォイがそこにいた。いつもの薄ら笑いを浮かべている。


有名人のハリー・ポッター。ちょっと書店に行っただけで一面大見出し記事かい?」


「ほっといてよ。ハリーが望んだことじゃないわ」


 ジニーが突っかかったとき、ロンとハーマイオニーが、ロックハートの本を一山ずつ抱えて人混みから脱出してきた。


なんだ、君か」


 ロンは、靴底にベットリとくっついた不快なものを見るような顔で、マルフォイを見た。


「ハリーがここにいて驚いたのかい? ん?」


「ウィーズリー、君がこの店にいるのを見て、もっと驚いたよ……そんなにたくさん買い込んで、君の両親はこれから一ヵ月は飲まず食わずだろうね」


 ロンの腕の中にある本の山を一瞥して、マルフォイがせせら笑う。ロンが真っ赤になったとき、ウィーズリーおじさんがやってきた。


「ロン、何してるんだ? 早く外に出よう……ここはひどいもんだ……」


「これは、これは ――― アーサー・ウィーズリー」


 背後から冷ややかな声が聞こえた。マルフォイ氏だった。息子の肩に手を置き、息子とそっくりな薄ら笑いを浮かべて立っていた。


「やあ、ルシウス」


 ウィーズリー氏は首だけ傾けて素っ気なく挨拶をした。できるだけ相手を視界に入れまいとしているようだった。反対にマルフォイ氏は、しっかりとウィーズリー氏を見て冷たく笑う。


「お役所は最近お忙しいらしいですな? あれだけ何度も抜き打ち調査を……残業代は当然払ってもらっているのでしょうな?」


 ふとマルフォイ氏はジニーの大鍋に手を突っ込み、使い古しの擦り切れた本を一冊引っ張り出した。それを眺め渡してニヤリと笑う。


「どうも、そうではないらしい。なんと、役所が給料も満足に支払わないのでは、わざわざ魔法使いの面汚しになる甲斐がないですねぇ?」


 ウィーズリー氏は、ロンやジニーよりももっと深々と真っ赤になった。


→ (4)


[*back] | [go#]