スウェーデン・ショート・スナウト .2



 ショート‐スナウトはカッと目を見開いた。炎を吐くのを止め、尻尾を横殴りに払って岩を弾き飛ばす……近距離における落下の衝撃で、卵が悪影響を受けるのを懸念したのだろう。

 セドリックは焼き焦げになるのは免れたが、風のうねりを食らって数メートルほど吹き飛ばされた。

「なんと! 大丈夫か!」

 セドリックは幸いにも岩にぶつかりはしなかったが、重い音を立てて地面に転がり込んだ。彼を心配してバグマンが叫んだ。観衆も立ち上がっている。スイもガタガタ震えていた。

「……大丈夫だよ」

 スイを撫でたリンが言った直後、セドリックが身じろぎ、ゆっくり身体を起こした。口元が赤い……鼻血を流しているようだ。それ以外には、目立つ外傷はない。視線を彷徨わせたあと、セドリックは微笑んで、大事に抱え続けた卵を掲げた。

「無事です ――― やりました! 課題クリアです!」

 不安そうな顔つきから一転、笑顔のバグマンが叫んだ。それを掻き消すくらい、スタンドから大観声が上がる。ドラゴン使いがショート‐スナウトに駆け寄っていく。

「さて、審査員の点数です!」

 ショート‐スナウトが連れ去られたあと、バグマンが意気揚々とアナウンスした。袖で鼻を押さえながら、セドリックが顔を上げる。スプラウトが走り寄って、止血用の布を渡し、彼の身体を支えた。

 リンが審査員席を見やると、マダム・マクシームが杖先から「 7 」を出したところだった。続いて、クラウチ氏が「 8 」、ダンブルドアが「 9 」、バグマンが「 8 」を出す。最後のカルカロフは、一瞬の間を置いたあと「 6 」の数字を出した。

「まずまずの点だな。若干名、依怙贔屓の疑惑があるが」

 ジンが舌打ちをした。スイは「まあ」と適当に相槌を打って、尻尾を揺らした。リンは何もコメントをせず、セドリックが囲い地から連れ出されていくのを見送っていた。マダム・ポンフリーのところで手当てを受けるに違いない。

「……行くか」

 唐突にジンが腕組みを解いて歩き出した。リンが「どちらへ?」と首を傾げると、セドリックのところだと言う。

「次の試合は見ないんですか?」

「デラクールの試合よりディゴリーの容態の方が気になる」

 なるほどと頷いて、リンは彼のあとを追った。突然の移動にバランスを崩しかけたスイが、慌ててリンのローブを掴む。

「君も行くのかよ!」

「だって、兄さんとセドリックの交流に興味あるもの」

「……そこは嘘でもいいから『セドリックが心配だから』とか言っときなよ」

 やれやれと首を振るスイに、リンは不思議そうに瞬いた。

**

 救急テントでは、マダム・ポンフリーがピリピリしていた。

「まったく! 去年は吸魂鬼、今年はドラゴン! 次は何を持ち込むやら……ディゴリー、私が見る限り、これ以上の傷はありません。ですが、しばらく座って安静にしているように」

 次の選手は大丈夫だろうかという雰囲気で、マダム・ポンフリーはテントを出ていった。彼女の後ろ姿を見送ったあと、ジンたちはセドリックのいる小部屋へと入った。

「なかなかいい試合だった。よくやった、ディゴリー」

「お疲れ様です」

 セドリックは突然の訪問に目を丸くしたが、すぐに微笑んだ。鼻血は無事に治療済みのようで、彼にとって幸いだったろうとスイは思った。リンの前で、ほかの部位からの出血ならともかく鼻血を流している顔を晒したくはないだろう。

「ほかの試合は見ないのかい?」

「興味ない」

 一刀両断するジンに、リンも同意を示す。唯一心配なのはハリーの試合だが、彼が取る手段は知っている。飛行なら失敗しないと確信があるので、見守らなくとも大丈夫だろう。

 リンの答えを聞いて、セドリックは頬を緩めた。花でも飛ばすかというくらい、うれしそうな雰囲気だ。ジンはなんとなく居心地の悪さを感じた。

 そのとき、外から「おお! これはよくない! おっと!」というバグマンの声が聞こえてきた。続いて「さあ慎重に……ああっと!」など、待機している選手の不安を煽るような声がする。

「……ミス・デラクールは、どんなドラゴンと戦ってるんでしょう? セドリックと同じ種類ではないですよね?」

「ウェールズ・グリーン種だよ、たしか」

 首を傾げたリンに、セドリックが答えた。ジンが「なぜ分かる?」と尋ねると、対戦相手と順番を決めるためにドラゴンの模型を抽選したと述べた。リンがパチクリ瞬く。





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