スウェーデン・ショート・スナウト .3



「そのミニチュア、まだ持ってますか?」

「え? ああ、うん。回収されなかったからね」

「見たいです」

 期待のこもった目をするリンを見て、ジンが溜め息をついた。先ほどの「ミニチュア版でほしい」発言はどうやら本気だったらしい。スイも呆れ顔で尻尾を振っている。セドリックは困ったように視線を外しながら、ポケットの中を探った。

「えっと、これだよ」

 すっと差し出されたスウェーデン・ショート‐スナウトのミニチュアに、リンの目がキラキラした。スイが「あー……」と呟く。これは絶対、気に入った。

「……かわいい」

 ぽつりとリンが言った。その通り、本物に比べたらミニチュアの方がはるかにかわいいと言えるだろう。しかしサイズが変わっただけで、長くて鋭い角も、鞭のような尻尾も、尖った牙も、そのまま備わっているようだ。

 セドリックの手の平の上で、ミニチュアは両翼を広げ、彼の指に噛みつき、尻尾を手にバシバシ叩きつけていた。セドリックの指からじわじわと赤い血が滲み出す。この様子を見て「かわいい」とは、よく言えるものである。

「おいでー」

 三人の視線の先で、リンはミニチュアに手を差し出す。自傷行為かと、ジンの肩に移動したスイは思った。ジンとセドリックもそう感じたらしい。顔を青くしている。

 しかし、ミニチュア・ショート‐スナウトは炎を吐きはしなかった。セドリックの指から牙を離し、大人しくリンを見上げる。そして、逡巡したあとリンの手へと飛び移った。うろうろ歩き回って、リンの指をパクリと噛むフリをする。

「……かわいい」

 もう片方の手で、リンがミニチュアを撫でる。ミニチュアはじっとリンを見上げたあと、翼と目を閉じ、指にすり寄った。

「……懐柔したな」

 ジンが的確に状況をまとめた。よく動物に好かれているとは思っていたが、ミニチュア模型にまで通用するとは、驚きだ。感嘆するジンとは対照的に、スイは頭を抱える。これ以上、謎のハーレムをつくらないでほしい。

「……リン、気に入ったならあげるよ」

 噛まれたところを擦りながら、セドリックが言った。好きな子のためにプレゼントをしたいのか、厄介払いをしたいのか、ジンとスイには判別がつかなかった。おそらく前者だろうが。

「でも、セドリックのものでしょう?」

 リンが首を傾げると、ミニチュアが炎を吐いた。無論セドリックに向けてである。彼のものと言われたのがよほど気に入らなかったらしい。リンが瞬いた。

「ほら、僕よりリンの方が好かれてるし……僕が、君にあげたいんだ」

 柔らかく微笑んだセドリックと視線が合ったリンは、ぱちりと瞬きをしてセドリックを見つめた。一瞬だけセドリックが知らない人に見えたが、気のせいだろうか。

「……ありがとう、ございます」

「気にしなくていいよ」

「……ちょっと待て、これって何か、そういうフラグなのか?」

 セドリックの注意がリンに向いていることを確認して、スイが小声で言った。なんだか妙な雰囲気になっているが……これは、そういう展開なのだろうか。

「は? おい待て。リンに恋愛はまだ早いぞ?」

「……まだそうと決まったわけではないだろう」

「なんだ、君はセドリックの味方なのか」

「ディゴリーの味方というか、強いて言うなら、リンを大事に想ってくれるひとに渡したい」

「父親かよ」

「おまえこそ似たような態度じゃないか」

 意味もなくイライラの矛先を向けてくるスイに、ジンは疲れた顔で溜め息をついたのだった。



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