見透かす目 .2



「いいマントだな、ポッター」

 案の定、ムーディはハリーに声をかけた。ハリーが驚いてムーディを見る。青い目と緑の目が見つめ合った。

「先生の目 ――― あの、見えるんですか?」

「ああ、わしの目は『透明マント』も見透かす……両目ではないから、劣るがな」

 ムーディの黒い目がリンを見た。静かに見つめ返しながら、リンはバタービールを飲み込んだ。両目がバラバラな方向を見ているのは、いまさら気にならない。それより、彼の口からかすかに漂ってきた匂いの方が気になった……何かの薬品のような匂いだ。

 正体を掴む前に、ムーディが身体を起こした。入れ替わりにハグリッドがかがみ、ハリーに何かを囁く。それから起き上がって、リンとハーマイオニーに向けて「じゃあ、またな」と言い、ハグリッドは去った。ムーディもあとについていった。

「ハグリッドに何を言われたの?」

 彼らの背中を見送って、リンが聞いた。ハーマイオニーは「え、何か言われてたの?」という顔で、ハリーの顔から数十センチ横を見た。リンの指摘を受け、視線を正す。

「なんて言われたの?」

「今日の真夜中に『透明マント』を着て会いにこいって」

「会いたいですって? ハグリッドったら、いったい何を考えてるのかしら?」

 ハーマイオニーが驚いた。そわそわと、もういないハグリッドを見やる。リンは「スクリュートに子守唄でも歌うんじゃない?」とふざけて、ハーマイオニーに蹴られかけた。

「まじめに考えてよ!」

「まじめに考えて理解できるなら、いくらでも考えるよ」

 リンが肩を竦めると、ハーマイオニーは黙った。しかし言い返せなくて悔しいやら、二度も避けられて腹立たしいやら、雰囲気がピリピリし出す。髪までうねっている気がする。ハリーとスイは恐れおののいた。平然としているリンが信じられない。

 のんびりバタービールを飲んだリンは、ふと視線を動かして、立ち上がった。ハンナたちがそわそわしてこちらを見ているのだ。うち一人はそわそわではなくイライラしている。

「そろそろ帰るよ。話してくれてありがとう」

 ひらりと手を振って、スイを肩に乗せ、リンはテーブルを移動した。残されたハリーたちは、数秒して聞こえてきた「なんであいつのとこ行ってんのよ!」という怒声に驚き、ちゃんと「透明マント」を着ているか、思わず真剣に確認した。



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