見透かす目 .1



 第一の課題が行われる火曜日が、あっという間に近づいてきた。

 その直前の土曜日、ホグズミード行きの許可が出たので、リンとスイはハンナたちと一緒に村を回っていた。休日にまで「セドリック」バッジをつけている友人たちに、リンはスーザンと顔を見合わせ、そろって溜め息をついた。

「ちょっと寒いわね……『三本の箒』でバタービールでも飲まない?」

 ベティの提案に、くしゃみをしたスイを心配したリンが同意を示したので、一行は「三本の箒」へと向かった。



 パブは混み合っていた。まずホグワーツ生が多い。それからボーバトンやダームストラングの生徒もちらほら見かけた。カウンターにリータ・スキーターを見つけたので、ハンナたちが渋い顔をした。

 適当なテーブルに着いて、リンたちはバタービールを飲んだ。ついでにいろいろと話に花を咲かせる。買い込んだ菓子をさっそく封切るベティに、スーザンとジャスティンが呆れた。その横で、ハンナとアーニーが便乗して蛙チョコレートを食べ始める。ハンナの口から茶色い蛙の足が見える様は、食べ物だと分かっていてもシュールだとスイは思った。

 スーザンとベティ、ジャスティンが「百味ビーンズ」でゲームを始め、ハンナとアーニーがカードの交換をし出す。ぼんやり眺めていたリンは、ふと視線を滑らせた。

 そんなに遠くない隅のテーブルに、ハリーとハーマイオニーがいた。ただハリーの方は「透明マント」を着ているらしかった。リンは金色に光る目をパチクリさせ、やおらスイを抱えて立ち上がり、それぞれ盛り上がっているベティたちを放置して、ハリーたちに近づいた。

「こんにちは、ハリー、ハーマイオニー」

 二人が顔を向けた。驚いた表情の二人に笑い、リンは空いている椅子に腰かけた。スイがテーブルの上に上がり、ハーマイオニーが広げているノートを覗き込む。S・P・E・Wの会員名簿だった。

「私の結界の代わりに、いいものを見つけたね、ハリー」

 転移で取り寄せたバタービールを一口飲んで、リンは笑う。ハリーは曖昧に微笑み返した。一方、ハーマイオニーはフンと鼻を鳴らす。

「私はいやよ。みんな、私が独り言を言ってると思って、じろじろ見てくるんだもの」

「じゃあ変装でもさせればいい。またポリジュース薬でも作れば?」

 ハリーがバタービールを吹き出しかけた。ハーマイオニーもあんぐり口を開けて、リンを見つめている。リンは首を傾げた。

「……冗談だよ? 作るの大変だし、下手な人には変身できないし」

「そうじゃなくて。あなた、どうして知ってるの?」

「あぁ、マートルが教えてくれた。彼女とは世間話をする仲だから」

 無造作に言うリンに、二人が微妙な顔をした。「嘆きのマートル」に口止めを依頼すべきだった……もっとも、聞き入れてくれないかもしれないが。

「……あ、ハグリッドがいる」

 リンが呟いた。マイペースすぎるとスイは内心で呆れる。そんなことは露知らず、リンは立ち上がって、帰ろうとするハグリッドに手を振った。

 ハグリッドが止まり、うれしそうに笑った。その背中を誰かがチョンと叩く……ムーディだ。青い目でこちらを見つめ、ハグリッドに何事かを囁いている。リンは瞬いた。

「ムーディ先生、いたんだ」

「失礼よ」

 興味がないので見落としていたらしい……。そう思って呟くと、ハーマイオニーが咎めてきた。ハリーが苦笑する気配がする。そうこうしているうちに、ハグリッドとムーディが到着した。

「元気か、リン、ハーマイオニー?」

「こんにちは、ハグリッド、ムーディ先生」

「珍しい取り合わせですね」

 大声で挨拶するハグリッドに、二人が挨拶を返す。ハーマイオニーがテーブルの下でリンを蹴った。避けたので問題はないが、リンは眉を寄せた。解せない。

「頭と口に関しては常々思っていたが、足もよく動くな、グレンジャー」

 ムーディが低く笑い声を立てた。「魔法の目」がテーブルへと向けられている。たぶん透視しているのだろう。ハーマイオニーがさっと赤くなった。

「何を広げている? ちょっと見せてくれ……」

 そう言って、ムーディは身体をかがめた。スイが飛び退いて、リンの肩へと移動する。ムーディはハーマイオニーのノートを読んでいるように見えた。しかし、青い方の目はハリーを見ていることに、リンは気づいた。





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