対ドラゴン作戦会議 .1



「リン、少しいいか?」

 日曜日の朝、朝食を取っていたリンは、呼び出しを食らって目を瞬かせた。とりあえず待ってもらい、トーストの最後の一口を紅茶で流し込む。

 ベティが「待たせてないで早く行きなさいよ!」と怒鳴ったが無視だ。「リンを急かすなど、なんと無礼な! リンにはリンなりのペースと考えがあるんだ!」とジャスティンが怒鳴り返すのも無視する。喧嘩が発展するのも、放っておく。

「お待たせしました」

「……彼らは放っておいていいのか?」

「問題ありません。あれが彼らの通常運行です」

 平然と一蹴するリンに、スイが尻尾を揺らした。最近、友人たちへの態度が大雑把になっている。ハリーへの態度を改めるよう言っているのに耳を貸さないからだ。ただし本人たちはそれに気づいていない。

「それより、どういったご用件ですか? ジン兄さん」

「……ここでは話しにくい。移動しよう」

 首を傾げるリンの後ろを一瞥して、ジンは溜め息をついた。何があるのかと振り返って見たいが我慢して、歩き出したジンのあとについていく。振り返ろうとしていたスイはバランスを崩して、リンの腕の中へと落っこちた。

 二人は大広間を出て、玄関ホールを横切り、正面扉の近くの柱のところで立ち止まった。リンと向き合って、ジンがまっすぐにリンを見る。リンは何事だろうかと瞬いた。

「……単刀直入に聞く。最近、ポッターとグレンジャーと一緒にいるところをよく見かけるが、どうした? アボットたちと喧嘩でもしているのか?」

「感情の差異に居心地の悪さを感じてるだけですよ?」

 ズバッと聞いてきたジンに対して、リンもスパッと答えた。物は言いようだなと、肩の上へと戻ったスイは思った。ジンもそう感じたのか、眉を寄せている。相手の雰囲気に気づいて、リンが肩を竦めた。

「一方的にハリーを敵視しているところが気に食わない。だけど彼らの気持ちも理解できる。バランスを取るために、当たり障りなく距離を取る。彼らよりハリーの方が、隣に人がいることを必要としている。だから彼の傍にいる。それだけですよ」

「……そうか。仲違いではないんだな?」

「ないですね」

「恋愛的な意味での三角関係だという説も、間違いなんだな?」

 話が落ち着いたと思ったところで、ジンがとんでもないことを言った。スイがまたもや肩から転げ落ちる。それを受け止めて、リンは眉を寄せた。

「なんですか、それ。そんな噂は初耳です」

「噂にはなっていない。ウォルターズが個人的に推測しているだけだ」

 ……あとで呪いでもかけておこうか。一瞬、思わず本気でリンはそう思った。いろいろな呪いを脳内で列挙しつつ、会話を続ける。

「そもそもハリーとハーマイオニーは恋愛関係にありません」

「俺もそう思ってはいるが、ほかの生徒の一部は『日刊予言者新聞』の記事を鵜呑みにしてる」

「兄さんやエドガーは信じていないでしょう?」

「ああ。だがウォルターズはどうも……おもしろ半分にふざける傾向がある」

 三角関係説も、たぶん本気ではないだろう。そうは言いつつ、ジンは溜め息をついた。妙に色気がある光景だと、スイは思った。本当に十六歳かと疑いたくなる。

「……まあ、人間の行動に突然の変化が現れたら、誰だってあらぬ推測をしたくもなるか」

「そこまで劇的には変化していないでしょう? 見かけたら話しかけにいく程度です」

「一緒にいる友人を置いてか? いままでは、見かけてもすれ違っても、手を振ったりアイコンタクトをしたりする程度だったじゃないか」

「どうしてそこまで詳しく行動を把握されていなければならないんですか?」

 無表情でつらつら語るジンに、リンが眉を寄せた。その腕の中で大人しくしているスイも、内心で「シスコンのストーカーかよ」とツッコミを入れていた。視線を受けたジンは、ただ静かに肩を竦める。リンはムッとして口を開いた。

「ジン兄さんこそ、一匹狼のスタイルを変えたんですか? 最近、昼間はミス・デラクールとのツーショットが多いし、夜中はセドリックと一緒にいると聞いてます」

 そろそろ肩に戻ろうとリンの腕を伝っていたスイが、本日三度目の転落をした。リンにキャッチされつつ、ぎょっとした目でジンを見上げる。明らかになにやら妙な勘違いをしているようだ。





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