膨らむ敵対心 .2 十日ほど前、「日刊予言者新聞」に大きな記事が載った。ハリーの人生を脚色しまくった記事で、一面大見出しでは飽き足らず、二面、六面、七面にまで続いていた。 元は三校対抗試合についての記事だったらしいが、ハリーだけが大きく取り扱われ、クラムとデラクールは(綴りミス付きで)最後の一行に詰め込まれたし、セドリックに至っては名前さえ出ていなかった。 これによって、ハッフルパフ生を中心に生徒からの風当たりがさらに冷たくなった。ボーバトンやダームストラングの生徒も気を悪くしたようだ。おまけにロンとの仲も余計に拗れたらしい。悲劇的だ。 「なんていうか、状況ってここまで悪化できるものなんだね。逆に感心する」 パスタを食べ終え、アップルパイに手を伸ばしたリンが言った。本当に感嘆している調子だった。スイがカップから紅茶を飲む様子も見て、ハリーは微妙な気持ちになった。 「他人事だと思って……」 「実際、他人事だもの。ハーマイオニーは恋人の危機で大変そうだけど」 スキーターの記事の中でハーマイオニーがハリーのガールフレンド扱いされたことを揶揄するリンに、ハーマイオニーが眉を吊り上げる。彼女が口の中を空にして喋りだす前に、リンは「冗談だよ」と謝罪した。スイがヒョイと尻尾を振る。 「男女の友情が成立することと、ロンも交えて三人で一緒にいることを、スキーターが見落としてただけ。まぁ、たぶん、それがロンの機嫌を悪くしたんだろうけど」 「ロンの名前が記事に出てこなかったから?」 「うん。コリンが親友扱いで出てたのに、ってのもあると思うよ」 ハリーの疑問に答えて、リンはパイを口に運んだ。ハーマイオニーが「まったく、ロンったら!」という雰囲気を醸し出す横で、今日もパイは美味しいなぁと思う。 「ハリー、あなたいつになったらロンと話をするの?」 スペアリブにフォークを突き立て、ハーマイオニーがつっけんどんに言った。頑固な友人たちに挟まれ、ストレスが溜まっているらしい。もう放置しておけばいいのに、ご苦労様だ。紅茶を飲みながら、リンは思った。 「あいつが自分の非を認めて謝るなら、また口をきいてもいい」 ハリーもつっけんどんに返した。ガチャ、ハリーの手元で皿とナイフが衝突する。 「僕から始めたわけじゃない。あいつの問題だ」 「よく言うわね、ロンがいなくて寂しいくせに! 言っておくけど、ロンだって、」 「ロンがいなくて寂しいだって?」 ピリピリするハーマイオニーを遮って、ハリーが繰り返した。「ロンだって寂しいと思ってるのよ」という言葉が、掻き消される。 「ロンがいなくて寂しいなんてことは、ないね」 フンと鼻を鳴らすハリーに、リンが『嘘つき強がり寂しがり』と、あえての日本語で呟く。スイがパシリと尻尾でリンの腕を叩いた。 「……まぁ、第一の課題を乗り越えたら少しは状況が改善されると思うから、それまで頑張りなよ」 ナプキンで手を拭いて、リンは言った。 「けっこう過酷で危険らしいからね。死にそうに戦ってるところを見れば、ロンも目を覚まして、みんなの怒りも鎮まるんじゃない?」 「リン、あなた、励ましてるのか不安にさせてるのか、どっちなの?」 「一応、励ましてる」 一応かよ、という気持ちを込め、スイがリンの腕を叩く。たまたま伸びていた爪がリンの皮膚を引っ掻いた。 リンは、慌てて逃げようとするスイを捕獲して膝の上に乗せた。そのまま片手で抱え込んで、ぐりぐりと頭部を圧迫する。 ギャアアと悲鳴を上げるスイと、無表情で仕返しを続けるリンを見て、ハリーは、ぐだぐだ悩んでる自分がバカらしいと、そのときだけ思った。 |