S・P・E・W .2



「それに、ハーマイオニー、君は妖精と話し合った上で言ってるの? 君が勝手に言ってるんだったら、それは君のエゴだよ」

「私は ――― 」

「彼らが本当に求めてるのは、正当な報酬とか労働条件じゃないと思うよ」

「じゃあ何だって言うの?」

 ハーマイオニーが短気に詰問した。スイが溜め息をついて、バナナを口に放り込む。リンは肩を竦めた。

「ありがとう」

「は?」

「世話する対象からの、感謝の心じゃない?」

 ほう。アーニーやハンナが感嘆の息をついた。スーザンとベティも感慨深げな顔をする。ハリーとロンはパチクリ瞬き、スイは尻尾を振った。

「彼らが人間の世話をするのは、本能的な親切心だと思うよ。形だけの賃金や労働条件で、彼らを幸せにできるとは思わないし、むしろ失礼だ。たとえ無償無休であっても、感謝と気遣いが得られるなら、彼らは、それだけで幸せと言えるんじゃないかな」

「でも、それはあなたが勝手に思っているだけかもしれないわ!」

「もちろん。それもあり得る。君の考えと同様に」

「私がですって?」

「君は、しもべ妖精たちは奴隷労働をさせられていると言った。その見方も、君が勝手に見ているだけかもしれないよ。君は、しもべ妖精が働くことを生きがいにし、幸福を感じている一面を無視してる」

「それは、彼らがまともな教育を受けてなくて、洗脳されてるからだわ!」

「その思考がすでに、偏見に満ちて差別的だってこと、分かってる? 彼らを下に見てる。そもそも、かわいそうだという感情自体、上から目線だよ」

 ハーマイオニーが言葉に詰まる。リンはスイを撫でた。

「だいたい、たった一人、ウィンキーの境偶の一場面を目にしただけで、すべての妖精がすべての場面で不幸だと判断するなんて、論理的じゃない。もっと多面的に見たら?」

 淡々と言って、リンは立ち上がった。そろそろ教室へ向かわないと遅刻してしまう。ハンナたちも食事を終え、立ち上がる。スイがリンの肩の上へと飛び移った。

「少なくとも、ホグワーツで働いてる屋敷しもべ妖精たちは不幸ではないと思うよ。一度、厨房に行って彼らの様子を見てみるといい」

 そう言い残して、リンは友人たちと共に、大広間の出口へと歩き出した。途中でベティが「さっすがリン様、すってき〜」と茶化したので、ジャスティンとの喧嘩が勃発した。

 一方、残されたハーマイオニーは、ひどく機嫌を損ねて膨れ面をしていた。しかし、それを見たのは、ハリーとロン、スイだけだった。

 なにやら余計な一言を呟いて八つ当たりを食らうロンを見て、スイは呆れた顔で尻尾を揺らした。



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