ホグワーツ特急にて .2



「………」

「…………」

 妙な沈黙が流れた。リンもセドリックも、動かないし何も言わない。十秒待って、相手が喋らないのを確認して、リンが口を開いた。

「……なに考えてるんですか?」

「………ごめん、特になにも考えてなかった」

「そうですか。よくあることですね、わかります」

 セドリックは何も返さなかった。再び訪れた沈黙の中、また十秒数えたリンが言葉を発した。

「……あの、よければ離してくれませんか? スイを置いてきたし、荷物も置きっぱなしで……あと、ハンナたちとも待ち合わせて、」

「リンは、あの二人のどちらかと付き合ってるのかい?」

「……え? いえ、交友関係はありますけど……恋愛関係はないです」

 いきなり話が飛んだけど、どうなっているのだろう? この場合、どうしたらいいんだ? 返事をしつつ、リンは困惑した。とりあえず、抱きしめてくる力が、少しだけ、痛い。

「……あの、」

「友達のところまで送るよ、リン。荷物は重そうだし、……何かあると困るし」

「………お願いします」

 反論できる雰囲気ではないことを悟ったリンは、素直に受け入れることにした。セドリックに手を引かれてコンパートメントを出る。その先の通路で、引っ掻き傷だらけの三人を発見した。

 すぐさま肩に乗ってきたスイを見るに、どうやらリンが連れていかれたことに腹を立て、三人に八つ当たりをしたらしい。心なしか、好きなはずのセドリックを睨んでいる。セドリックが小さく謝罪した。

「リン、スイの爪、切った方がいいぜ」

 なぜか一番傷が多いフレッドが、疲れ切った顔で言った。スイが「黙れ!!!」と言わんばかりに、毛を逆立てる。これは相当気が立っている……リンは、そっと彼女を抱きかかえた。

「リン? 何があった? 無事か?」

「リンッ! そんなところに! ご無事で?」

 セオドール・ノットと、ジャスティン・フィンチ-フレッチリーが、同じタイミングで現れた。ノットは近くのコンパートメントから顔を出し、ジャスティンは通路を駆けてくる。最悪のタイミングだと、リンは頭を抱えたくなった。

 案の定、顔を合わせた途端、ノットとジャスティンは険悪な雰囲気を醸し出した。身長差のため、ノットが見下ろす側、ジャスティンが睨み上げる側となっている。傍から見ればどちらも恐ろしい。スイはすっかり怒りを忘れて思った。

「……おそばにはべっていなかったなんて、珍しいな。捨てられたのかと思った」

「心配どうも。リンが僕を不必要だと思うことは未来永劫あり得ないから、どうか安心してくれ。むしろ、リンから留守を預かるほど信頼されているのさ」

「……留守を預けた覚えはないけど」

 小さく呟いたリンの声は、汽笛の音に掻き消された。なぜこのタイミングで汽笛が鳴るのか、不思議でならない。

 その間にも、二人の舌戦は盛大に繰り広げられる。上級生四人が苦笑しているのが、気配で分かった。

 今日は厄日かな……。リンは窓の外を眺めて、溜め息をついた。



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