ドレスローブの必要性 .2



 洗いたての男子制服を、夫人と分担して抱え、リンは階段を上った。スイは、洗濯物を汚さないように配慮したのか、居間で留守番をしている。目的地の部屋からはピーピーと音がした。またピッグウィジョンが興奮しているらしい。

「静かにしようか、ピッグウィジョン」

 夫人に続いて入室したリンが一言言うと、ピッグウィジョンはピヨッと鳴いて静かになった。フクロウの嘴からヒヨコのような鳴き声を聞いたのは初めてだ……。そんなことを考えながら、リンは制服をハリーに渡した。

「エ ――― ッ ?!!」

「ドレスローブです!」

 突然、ロンとウィーズリー夫人が会話の音量を大きくした。見ると、ロンの手には、フリルの多い栗色のドレスローブらしきものが握られている。

「……ロンの色って、栗色で定着してるの?」

「リン、感想を持つのはそこじゃない」

 ハリーがツッコミを入れた。リンはあまり興味なさげに、ヘドウィグの籠に手を伸ばし、格子の間から指を入れ、ヘドウィグを撫でる。ヘドウィグはうっとりと目を閉じた。リンにすり寄るヘドウィグを見て、ハリーは飼い主として複雑な気分になった。

「学校からのリストに、ドレスローブを用意するように書いてあったの! ハリーにも買ってあげましたとも! リン、あなたのドレスはアキさんから送られてきましたよ」

 夫人はハリーとリンに向かって微笑んだ。ハリーたちは小さく礼を言ったが、微笑み返すのは避けた。夫人の背後で、ロンが「どうせ君たちはまともなものを買ってもらったんだろ」という顔をしていたからだ。

「……フレッドとジョージのドレスが気になるね。中古だと、今度は、お揃いにはならないのかな」

 ウィーズリー夫人が退室したあと、リンが少しずつ方向性を変えようとして言った。しかし、ロンは反応しなかった。

 フンと鼻を鳴らして拗ねるロンの背後で、ハリーはリンと顔を見合わせる。ヘドウィグの籠から手を離したリンは、小さく肩を竦めた。

「そもそも、なんでドレスローブが必要なのかな?」

 今度はハリーが言った。それでもロンは喋らない。リンはもう放置することにした。

「知らない。ハロウィーンかクリスマスに、パーティーでもするんじゃない?」

「いままではやってこなかったのに?」

「客でも呼ぶのかもしれないよ。ワールドカップで、国際協力がどうとかいう風潮になってるし……ほら、パーシーが何度か仄めかしてたでしょう? 『国際魔法協力部が、ワールドカップのすぐあとに、もう一つ大きな行事を組織する』って」

 パーシーの言葉を引用するリンに、ハリーが目を丸くした。そこまで彼の話を気に留めていなかったらしい。ロンが少しだけ身じろぎしたが、ハリーは気づかない。

「大きな行事が、ホグワーツで開催されるってこと?」

「たぶんね。パーシーがわざわざ私たちに仄めかしたんだ。私たちが興味を持つか、私たちに関係があるか、あるいは両方か……でなければ、私たちに仄めかしても、意味がないもの」

 言いながら、リンはピッグウィジョンの籠に手を伸ばす。鳴き声は止んだものの、ピッグウィジョンは今度はブンブン飛び回っていた。リンが指を差し込むと、そこに止まる。ホッホッとご機嫌な声が出た。

「ドレスローブの説明もつくし、間違いないと思うよ。具体的な内容までは分からないけど」

 するりと指を抜いて、リンは踵を返した。ドアを開けて「じゃあ、モリーさんの手伝いをしてくるから」と言い残し、リンは部屋を出ていった。



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