ドレスローブの必要性 .1



 それから一週間は、いろいろ大騒動だった。

 まず、リンとハリーを心配して、リーマスとシリウスが「隠れ穴」に襲撃してきた。あまりの心配振りに、最終的にリンもハリーも辟易した。

 次に、リン宛てに手紙が殺到した。差出人はジンとアキヒト、それから従弟二人からだった。なぜ全員ばらばらに送ってくるのか、リンは疑問に思った。せめて兄弟と親子で一通ずつだけ送ってこれば、返事が楽なのに。

 いろいろ考えた挙句、最後には面倒になってアキヒト宛ての一通に一括して済ませてしまった。事前にはスイが、事後にはハーマイオニーが咎めてきたが、リンは無視した。

 さらに、ウィーズリー氏とパーシーが役所仕事に駆り出され、ほとんど家にいなかった。二人ともみんなが起き出す前に家を出て、夕食後遅くまで帰らなかった。

「まったく大騒動だったよ」

 ホグワーツに戻る一日前、つまり日曜の夜、パーシーが愚痴った。

「この一週間ずっと火消し役だった……『吼えメール』が次々と送られてくるものだから。当然、すぐに開封しないと爆発する。僕の机は焼け焦げだらけだし、一番上等の羽根ペンは灰になるし……」

 つらつら語るパーシーを、居間にいるみんながほとんど聞き流した。暖炉マットの上では、ジニーが『薬草学ときのこ千種』をスペロテープで繕い、スイが手伝っていた。

 ウィーズリー夫人は、そわそわチラチラと部屋の隅の柱時計を見ていた。九本ある針のうち八本は「家」の位置を指している。しかし、一番長いウィーズリー氏の針はまだ「仕事」を指していた。

 ロンとビルは、テーブルでチェスの対戦中だ。そこから少し離れた席で、ハーマイオニーが「基本呪文集・四学年用」を音読している。それを聞きながら、たまに詳しい呪文のスペルを尋ねながら、リンがチャーリーと一緒に床に座り込み、彼の防火頭巾を繕っていた。

 二人の横で、ハリーが箒の手入れをする。彼の「箒磨きセット」と裁縫道具が並んでいるのはなんとも奇妙な光景だと、スイは思った。そもそもなぜリンがチャーリーのために裁縫をしているのか、それが不思議でならない。おそらく深い意味はないのだろうが。

「そこの二人。こそこそと何をしているの?」

 不意にウィーズリー夫人が言った。フレッドとジョージは部屋の隅に座り込み、羽根ペンを手に、なにやらヒソヒソと話していたのだ。母親に見咎められて、フレッドが「宿題さ」と呟いた。ジョージが「やり残してて」と続ける。

「バカおっしゃい。まさかウィーズリー・ウィザード・ウィーズの話じゃないでしょうね?」

「ねえ、ママ」

 フレッドが痛々しげな表情で母親を見上げた。

「もしだよ、明日ホグワーツ特急が衝突して、僕もジョージも死んじゃって、ママからの最後の言葉がいわれのない中傷だったって分かったら、ママはどんな気持ちがする?」

 みんなが笑った。夫人まで笑っている。ただ一人、パーシーは「不謹慎な」と顔をしかめていた。リンはクスクス笑いながら、出来上がった頭巾を、それまでの完成品の横に並べた。

「早いな、リン」

 チャーリーが驚いて言った。残る頭巾はもう、いまチャーリーが持っているものだけとなっていた。リンはニコリと笑って、飛ばされてきたビルのナイトを片手でキャッチした。

 その後、帰宅したウィーズリー氏がもたらしたニュースや、ハーマイオニーとパーシーの「クラウチ氏のしもべ妖精」論争をやり過ごして、リンは女子部屋に戻った。

 しかし、ほかの二人とは違い、リンはすでに荷造りを終えてしまっていた。やることがなく、リンは夫人の手伝いを申し出た。
 


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