融ける、(3)



「憎しみ、とかでは、ないのですか?」


「愛憎は紙一重ですから」


 くるくるとカップを回しながらリンが言ったセリフに、クィレルは納得したようだった。では……? と首を傾げてくる。


 リンはカップを回す手を止め、静かに呟いた。


「……無関心」


「………そう、ですか」


 クィレルは何とも形容しがたい表情を浮かべ、それっきり黙り込んだ。


 彼が何も言わないので、リンは、沈黙を埋めるように、ぽつぽつと言葉を零していく。


「……片想いって、結構つらいものなんですね」


「……そう、ですか」


「期待して失望するよりは、何も期待しないでいる方がいいのでしょうか」


「…………」


「……でも“される”側からしたら、期待されるより、期待されない方が、辛いですよね」


「………そう……ですね……」


 ああ、らしくないなぁ、とリンは思った。教師とは言え赤の他人の前でこんな弱音を吐くなんて、どうかしている。


 カップを握る指先に力を込めたとき、何かが頭に触れてきた。


 パッとリンが顔を上げると、いつの間にか、クィレルがすぐ前に立ち、彼女の頭を撫でていた。


 眉を軽く寄せて、唇を引き結び、憐れんでいるような、共感しているような……そして、そういった感情を押し殺しているような、何とも言えない表情をしている。


「……君は……寂しいのですね」


 クィレルが呟いて、髪を梳く要領で、ぎこちなくリンの頭を撫でる。


 その手に促されるようにして、リンは静かに目を閉じた。ひどく落ち着く……グルグルと、頭と胸の内に渦巻いていた暗い感情が、融けるように掻き消えていく感じがした。ほっと身体の力を抜いて、リンは深く息を吸う。


 兄とか、父とか。もし自分にそんな人がいたとしたら、こんな感じなのかな……そう思いながら。


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