髪飾りの贈り主 (3)



「髪飾りだっ!」


 一瞬、間〔ま〕が空いた。そのあと、まだ分かっていないスイの横で、リンが「……あぁ」と声を漏らした。


「クリスマスに髪飾りを贈ってきたの、君だったんだ」


「わ、分かってなかったのか?!」


「だって、カードも何もなかったし」


 スイが「なんだと……?!」と愕然としているのをよそに、会話は進む。マルフォイは一瞬「え?」という顔をしたあと「い、色で理解しろ!」とまた怒鳴った。どうやらカードは、入れ忘れたか、頭から抜け落ちていたらしい。残念な子である。


「せっかく僕が直々に見繕ってやったのに……」


「どうでもいいんだけど、君、さっきから怒鳴りっぱなし。図書館では静かにしないとマダム・ピンスに怒られるよ」


「本当にどうでもいいな! なんでいまそれを言うんだ!」


「それで、マルフォイ、どうして髪飾りなんて贈ってきたの?」


「……お前、会話ってものを知らないのか?」


 ポンポン、意外とリズムよく交わされる会話を聞きながら、スイはマルフォイを睨みつけていた。あの髪飾りを贈ってくるとか、キャラじゃないだろ、とツッコんでやりたい。面倒なことになるのでやらないが。


「これだから女は……話に脈絡がなさすぎる」


「それで、贈ってきた理由は?」


 黙れこの馬の骨がぁあ……というスイのオーラには、リンもマルフォイも気づいていない。特にマルフォイの方は、猿など元より眼中にない。というより、そこまで気が回らない様子だった。リンが繰り返した質問にしどろもどろになっている。


「り、理由……っそれくらい理解しろ! お前、学年トップだろう!」


「成績の良さと頭の良さは、必ずしも比例しないよ。なぜなら、」


「そこはべつに説明しなくていい!」


 ああもう! と叫び出しそうなマルフォイを前に、リンは、この人本当めんどくさいな……と思っていた。さっさと言ってしまった方が楽だろうに。マルフォイの方も、このままでは埒〔らち〕が明かないと悟ったようで、溜め息をついた。


「……特急で、吸魂鬼から僕を救っただろう。その礼だ」


「あのとき『君を助けたつもりはない』って言ったと思うんだけど」


「ほっ、ほかにもある! 聞け!」


 スイの毛が一瞬逆立った。この野郎……と呟いたのを、リンは確かに聞いた。そっと宥めるようにスイを撫でるリンに、マルフォイがいろいろと並べ立てる。


「その、お前は本当に……なんでもないようにして、恩着せがましくなかったというか……ノットが言う通り、あのときに取った態度が……少し、失礼だったかと……そもそも、女には優しくするものだと、いつも父上が……」


「ノットが、君に意見を? 彼、それくらいには立場強いんだ?」


「だからどうしてそう変なところに反応するんだ?!」


 感嘆するリンに、マルフォイがツッコミ(貴族の彼が、そのような概念を知っているのか謎だが)を入れる。スイは、だんだんとマルフォイへの敵意が薄れていくのを感じた。


「ほかにもっと重要なところがあるだろう!」


「私にとっては、そこが一番関心をそそられるとこだったから」


「僕が君に対して持つ印象を少し改めたというのにか?!」


「だって、君が私をどう思っていようと、私に関係ないし」


「……っ?!!」


 まさにショックを受けているとしか形容できない表情をするマルフォイに、スイはちょっと同情した。貴族の一人息子で、甘やかされ媚びられ諂〔へつら〕われてきた彼には、リンの言葉は重いだろう。反面、いい薬だとも思っているのだが。


→ (4)


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