髪飾りの贈り主 (2)



 窓の外へ視線を向けながら微笑むリンを、ハーマイオニーとスイは、意外と占いの才能があるのかもしれないという気持ちで見つめた。スイの場合、予知か何かの超能力を無意識に使ったんだろうとも思っていたが。


 二人の視線に気づいたリンは、目を瞬かせたあと、ニッコリ笑った。


「ほら、話が終わったなら行こう。ハリーとロンが君を探してるよ。私もハンナたちを待たせてるし」


 ごく自然にハーマイオニーの腕を取って歩き出すリンの肩の上で、スイは尻尾をひょいと振った。


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 その日の午後、ハッフルパフ女子寮の一室は、ひどく慌ただしかった。ハンナの魔法薬学の試験対策ノート(リン作成)と、ベティの薬草学で使う手袋とその他諸々が紛失しているのだ。


「片付けをしっかりしなさいって、私、日頃から言ってるわよね、ベティ? ハンナも、使い終わったからって放置しないよう、あれだけ言ったのに……」


「分かってるったら!」


「ちょっと置いておいただけなのよ?」


 叱りながらも捜索を手伝ってやるスーザンと、カリカリするベティ、オロオロと必死なハンナは、見ていておもしろいとスイは思った。完全に他人事である。


「スイ、私、図書館に本を返しに行ってくるけど、どうする?」


 きちんとトランクを閉じたリンが、声をかけてきた。毎度のことながら、片付けが早い。元々そんなに持ち物を散らかさない性格なのだ。


 バタバタしている部屋を見渡したあと、スイはリンの肩へと飛び乗った。相棒を一撫でして、リンはルームメイトたちに一言残して部屋を出た。


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 図書館は、そこそこ混雑していた。本の返却を忘れていた生徒が慌てて返しに来たという印象だ。


 すっかり顔馴染みになったマダム・ピンスに声をかけて返却手続きをしたあと、リンは、なんとなく図書館の中を歩いて回った。部屋に帰ると面倒なことになる……という理由もあるが、今年だけでずいぶん世話になった場所を、一年の終わりということで見ておきたかったのだ。


 魔法がかけられた本が飛び交う中を歩いていくと、不意に「おい」と声をかけられた。振り向いて早々「うげっ」という顔をするスイとは対照的に、リンは不思議そうな顔をしただけだった。


「……マルフォイ? どうかしたの?」


 腕を組んで本棚にもたれかかっている(微妙に様になっているのが憎らしいとスイは思った)ドラコ・マルフォイは、眉をひそめてリンを見た。


「べつに、取り立てて用はない」


「ああそう。じゃあ、さようなら」


「っな、ちょっと待て!」


 スタスタと通り過ぎようとしたリンを、マルフォイはなぜか引き止めた。なにこの人めんどくさい、と思いながら、リンは足を止めて振り返る。マルフォイは、じっとリンを見て(睨んで?)きた。


「お前には、少し聞きたいことと言いたいことがある」


「……なに?」


 リンがちょいと首を傾げて促すと、マルフォイはギュッと唇を引き結んだ。口をモゴモゴさせ、言おうかどうか迷っているようだったが、ついに口を開いた。


「……使わないのか」


「なにを?」


 目的語がない文に少し呆れたリンが尋ね返すと、マルフォイは、頬を薄っすら染めて怒鳴るように言った。


→ (3)


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