進んで、帰って、進める (2)



 一方、リンは、ナツメとブラックの親密度に疑問を抱いていた。珍しく、ナツメの会話(ナツメからのレスポンス)がまとも(棘が少なめ)に続いている。


 ナツメは基本的に、興味関心を持っていない対象に対しては、徹底して無視をし、相手の発言に返答することもない。そのため、会話というものがまったく成り立たない。


 そう考えると、スネイプと同様、ブラックもなかなかナツメと親しい関係にあると言えそうだ。


「……ところで、いつになったら城へ帰るのかね?」


 リンがしげしげとナツメとブラックを見比べていたとき、スネイプが言った。ハリーとブラックが真っ先に彼に視線を向ける。


「我輩は、いったいいつまで ――― あー、このご一行におつき合いすればいいのかな?」


「いますぐお帰りいただいても結構だが」


 冷ややかに言ったブラックに対し、スネイプはせせら笑った。


「我輩は、親愛なる我が友人に聞いたのだ。貴様ではない……そもそも、貴様が下した判断に、我輩が従うとでも?」


 ブラックが、素早く大股に一歩前に出た。驚いたスイがリンの肩から滑り落ちかける。手を伸ばして相棒を助けつつ、リンは、ギラギラした目で睨み合う男たちを眺める。二人の顔に浮かんだ憎しみは、甲乙つけ難い激しさだ。


 この二人は仲が悪いのか……と、リンがぼんやり思ったとき、ナツメが「ふむ」と頷いた。


「そうだな。もう用は済んだことだし、そろそろ行くか」


 どこからともなく懐中時計を取り出して時間を確認するナツメを見て、スイは思った ――― ホント、マジで空気読め。


 ブラックとスネイプの仁義なき戦い(?)は、終息はしたが収束したわけではないので、妙にギスギスした雰囲気になってしまっている。こういう中途半端な状況ホントやめてほしい。スイは思った。


 その気持ちを察したのか、リンがそっとスイを撫でる。貴重な優しさと癒しに、スイは泣きたくなった。リンたちが戻ってくるまでの阿鼻叫喚を一人で(クルックシャンクスは、一匹で夜の散歩に出かけやがった)見ていたから、余計に。


 思い出して身震いするスイを、リンは静かにローブの中に入れてやった。寒いのだろうかという気遣いからくるものだったが、スイはそれに気づかず、優しさだと勘違いしてリンにすり寄った。


 なぜか妙に甘えてくるスイをポンポンと撫で、リンは、椅子から立ち上がった母を見た。しかしナツメは、リンには見向きもせず、ペティグリューの方へと歩いていく。


「とりあえず、この屋敷から出るとして」


 ピタリと立ち止まって、ナツメはペティグリューの腹を蹴った。鈍い呻き声がして、ペティグリューが目を覚ましたのが分かった。


「誰か、こいつをつれてこいよ」


 うわぁ、容赦ないなぁ……と見ているリンだったが、ハリーとハーマイオニー、それからスネイプは、昨年度の決闘クラブでのリンの姿を思い出し、なるほど血筋か……と納得していた。そんなことは露知らず、ブラックは一人、こういうところがリンに遺伝しなくて良かったと安堵していた。


 だが当然、誰一人として、お互いの思考に気づいてはいない。


「それから、お前、変身したら地獄を見ると思っておけよ?」


 ペティグリューを踏みつけたまま、ナツメがうっそりと笑った。ペティグリューの顔が、真っ青から真っ白になる。哀れな男を見下ろして、ナツメは指を鳴らした。


 途端、ペティグリューに真っ黒な首輪がつけられた。サイズが微妙にきついらしく、ペティグリューの顔が歪み、息が荒くなる。


「 ――― まあ、変身できればの話だけどな」


 変身を阻害する枷をつけさせて、ナツメは男から興味を失ったのか、男を蹴り飛ばした。蛙が潰れるよりひどい声がした。それをも無視して、ナツメは無表情で振り返る。


→ (3)


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