進んで、帰って、進める (3)



「さて、じゃあ行くか。セブは一緒に来るとして……お前はどうするんだ?」


「……俺か? ハリーたちと一緒に通路から出るつもりだが」


 視線を受けて、ブラックが言った。ナツメが「そうか」とあっさり引き、スネイプが「すばらしい親心ですな」と口元を歪める。


 リンは、パチクリ瞬いた。命令形を多用するナツメが、誰かに「どうするか」と尋ねるなど、本当に珍しい。その対象にブラックが含まれていることに、嫉妬などを通り越して、純粋に驚きを感じた。


 ナツメはブラックから視線を外し、おもむろにリンを見た。真っ黒な目が、リンの目とかち合う。


「ヒッポグリフはどうした」


「……え、あ、玄関の柱に繋いであります。一応、周りに結界を張って」


「私が移動して五秒経ったら、その結界を解け」


 どうやら、バックビークのことを引き取ってくれるようだ。ちょっと意外に思いつつも、リンは母の指示に頷く。


 そんな母娘関係を見て、ブラックが顔をしかめたが、特に何も言わなかった。


「行こう、セブ」


 沈黙しているスネイプの腕を取って、ナツメは、今度こそ「叫びの屋敷」から姿を消した。


「……いつも、こんな調子なのか?」


 ナツメが消えたところからリンへと視線を移して、ブラックが苦々しげな表情で言った。スイが尻尾を振る。しかし肝心のリンは、バックビークの周囲に張った結界に意識を向けており、気づいた様子はない。


 しばし返答を待ったが反応を得られず、ブラックは無言で頭〔かぶり〕を振り、ハリーたちを振り返った。


「ノロノロしてても仕方ない……行くか」


「あ、じゃあ、私がロンを連れて転移しますね」


 絶妙のタイミングで意識をこちらに戻したリンが言った。気を失っている(しかも脚を骨折したままの)ロンを運んでトンネルを進むのは骨が折れるだろうと思ってのことだ。


 スイやハリーたちが、微妙な表情を浮かべて、リンを見る。それを見て、リンは首を傾げた。スイが尻尾を振る。ブラックは、少しの沈黙のあと「頼む」とリンに笑いかけた。


 そこで、タイミング良く、クルックシャンクスが部屋に戻ってきた。ハーマイオニーが名前を呼ぶと、彼女の足元まで歩いていき、ゴロゴロ喉を鳴らす。


「……えっと、じゃあ、またあとで」


 ハリーがリンに手を振った。瞬きをして、リンは微笑んで手を振り返す。


「君たちも、気をつけて」


 ブラック、ハリー、ハーマイオニー、それからクルックシャンクスの順番で、部屋を出ていく。彼らを見送ったあと、リンはロンの横にしゃがみ込み、彼の腕にそっと触れた。できるだけ衝撃を与えないように“移動”しなくては。


 長い夜だったなぁと感慨を抱いて、リンは、スイが肩にしっかり乗っているのを確かめ、ロンと共に「屋敷」をあとにした。



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