答えの見えない疑問 (1)



 暗闇がだんだん色濃く三人を包み込む中、三人は森の裾に沿って進み、「暴れ柳」が垣間見える木立の陰に隠れた。


「ロンが来た!」


 突然ハリーが声を上げた。リンが彼の視線の先を追うと、まさに、ロンが芝生を横切って駆けてくる。クルックシャンクスを怒鳴りつける声が届いた。


 それから、どこからともなく、もう三人の姿が現れるのが見えた。リン自身、ハリー、ハーマイオニーが、ロンを追ってくる。そしてロンがスライディングするのが見え、直後にリンがハリーとハーマイオニーを止めた。


「僕ら、一人でに急ブレーキをかけたように見えるよ」


 結界を張っている(三時間前の)リンの姿が見えていないハリーが呟いた。確かに、もしリンが見えていなかったらそう見えるのかもしれない……それはそれでおもしろそうだとリンが思ったとき、ハーマイオニーが囁いた。


「今度はシリウスよ!」


 リンが意識を「柳」の方へ戻すと、根元から大きな犬が躍り出た。犬がハリーを転がし、ロンを咥える。


「ここから見てると、余計ひどく見えるよね?」


「うん。引きずられてるときのロンって、声とか顔とか、ちょっと情けない感じがするね」


「もう少し容赦してあげたら?」


「アイタッ!」


 根元に引きずり込まれるロンを眺めながら、ハリーとリンが言った。それに対して、ハーマイオニーがロンを擁護する立場を取ったが、ハリーの声に掻き消された。


「見てよ、僕、いま木に殴られた ――― 変てこな気分だ……」


「痛覚を感じるの? 過去の光景を見ているだけなのに?」


 リンが不思議そうに感嘆の息を吐いた。


「感情とか意識を移入してるのかな……それとも、やっぱり、突き詰めると同一人物なわけだから、同じ時空間に存在してるってことで、いろいろとリンクしちゃうのかな……共有……それぞれの身体が持っている時間軸を超えて?」


「……楽しそうだね、リン」


 思考を巡らせ始めるリンに、ハリーが力の抜けた顔で呟いた。いつも通りの静かな表情だが、いつもより少し生き生きしているように見える。相当興味を示したらしい。


 また難しいことを考えてる……と、やや呆れながらリンを見ていたハリーだったが、ハーマイオニーが「クルックシャンクス」と零したため、視線を「柳」へ戻した。木が動かなくなっている。


「クルックシャンクスがあそこで木のコブを押したんだわ」


「僕たちが入っていく……」


 ハリーが呟く。リンも思考を打ち切って、「暴れ柳」のところにいる方のハリーたちを見た。


 全員の姿が消えた途端、「柳」はまた動き出した。その数秒後、三人はすぐ近くで足音を聞いた。ダンブルドア、マクネア、ファッジ、委員会のメンバーが城へ戻るところだった。一行を眺め、ハーマイオニーが歯噛みする。


「私たちが地下通路に降りたすぐあとだわ! あのときダンブルドアが一緒に来てくれてさえいたら……」


「そしたら、マクネアもファッジも一緒についてきてたよ ――― 賭けてもいいけど、ファッジは、シリウスをその場で殺せって、マクネアに指示したと思うよ」


「その前に、ここで何をしていたのかって問いただされてたはずだよ」


 苦々しげなハリーに続いて、リンが発言した。


→ (2)


[*back] | [go#]