「逆転時計」 (5)



「止まって! みんなが音を聞きつけるかもしれないわ ――― 」


 言い終わらないうちに、小屋の裏戸がバタンと開いた。ハリー、ハーマイオニー、リン、バックビークは、じっと音を立てずに佇んだ。ヒッポグリフまで耳をそばだてているようだった。


 静寂……そして ――― 。


『どこじゃ?』


 委員会のメンバーのひょろひょろした声がした。そのすぐあとを、カンカンに怒った死刑執行人の怒鳴り声が追ってくる。


『ここに繋がれていたんだ! 俺は見たんだ! ここだった!』


『これは異なこと』


 ダンブルドアが言った。どこかおもしろがっているような声だ。実は予想していたのではと疑うリンの耳に、シュッ、ドサッと斧を振り下ろす音がした。


 死刑執行人が癇癪を起こして、斧を柵に振り下ろしたらしい。それから吠えるような声がし、ハグリッドがすすり泣く。


『いない! いない! よかった! かわいい嘴のビーキー、いなくなっちまった! きっと自分で自由になったんだ! ビーキー、賢いビーキー!』


 バックビークがハグリッドのところへ行こうとしたが、リンが静かに嘴を撫でると、悲しそうな顔をしたものの、大人しくなった。


「……ごめんね、いまは我慢してほしいんだ」


『誰かが綱を解いて逃がした!』


 バックビークに言い聞かせるリンの言葉に重ねるように、死刑執行人が歯噛みした。


『探さなければ。校庭や森や、』


『おお、マクネア。バックビークが盗まれたのなら、盗人は、バックビークを歩かせて連れていくと思うかね?』


 ダンブルドアはまだおもしろがっているようだった。口調と妙なアドバイスからして、やっぱり本当に気づいていたのではと、リンはますます疑った。


『どうせなら、空を探すがよい……ハグリッド、お茶を一杯いただこうかの。ブランディをたっぷりでもよいのぅ』


『は ――― はい、先生さま……お入りくだせえ、さあ……』


 ハグリッドは嬉しくて力が抜けたようだった。有頂天になって羽目を外しすぎなければいいが……。リンは心配した。


 死刑執行人がブツブツ悪態をつくのが聞こえ、戸がバタンと閉まり、それから再び静寂が訪れた。


「……どうする?」


 ハリーが辺りを見回しながら囁いた。リンはバックビークを撫でつつ空を見上げ、ハーマイオニーは張り詰めた表情をしていた。


「隠れていなくちゃ……私たちが『叫びの屋敷』から出てくるのを待たないといけないわ。ペティグリューを捕まえるのは、そのタイミングじゃないと……ああ、本当、とても難しいわ……」


 ハーマイオニーは振り返って、恐々と森の奥を見た。太陽がまさに沈もうとしていて、木々が紅く燃えているように見えた。


「移動しなくちゃ」


 ハリーが考えながら言った。


「『暴れ柳』が見えるところにいないといけないよ。じゃないと、何が起こっているのか分からなくなるし」


「そうね……じゃあ、行きましょう」


 ハーマイオニーが、リンのマイペースさが信用ならないからか、それとも一緒にバックビークを誘導するつもりなのか、手綱に手を伸ばした。バックビークの目がキラリを光ったのを見て、リンは慌てて宥めるようにヒッポグリフの頭を撫で、ハーマイオニーには手綱の端を持つよう促した。


[*back] | [go#]