答えの見えない疑問 (2)



 四人が城の階段を上って見えなくなるまで、三人は見つめていた。しばらくの間、辺りには誰もいなかった。そして ――― 。


「ルーピンだ!」


 ハリーが言った。その通り、ルーピンが石段を降り、「柳」に向かって疾走していく。リンは空を見上げた……雲が完全に月を覆っている。もしこのとき月が出ていたらと思うと、洒落にならない。あのときはあのときで困ったが、このときもこのときで困る。


 なかなか難しい……とリンが思っていると、ルーピンが折れた枝を拾って、それで木の幹のコブをつついた。木は暴れるのをやめ、ルーピンもまた木の根元の穴へと消えた。


(……そういえば)


 ふと、リンは疑問を持った。あのとき確か、ハリーが「透明マント」を「柳」のところに置きっ放しにしてきたような気がする。あれはいまどこにあるのだろう? ルーピンが拾ったというわけではなさそうだ。となると ――― 。


 ちょうどそのとき、大きな歌声が聞こえてきた。リンは思考を止めて音源を探した。ハグリッドだ。城へ向かう道すがら、足元をふらつかせ、声を張り上げて歌っている。手には大きな瓶をぶら下げていた。


 完全に酔っ払っているハグリッドを見て、リンは頭を抱えたくなった。やはり有頂天になって羽目を外してしまったらしい。


 酒を飲むこと自体には何ら問題はないが、ハグリッドの場合、かなりの確率で酒に飲まれてしまうので、問題大有りだ。まったく、と呆れたリンの横で、何かが身じろぐ気配がし、同時にハーマイオニーが鋭く囁いた。


「ダメよ、バックビーク!」


 ヒッポグリフは、ハグリッドのところに行きたくて必死になっていた。手綱を掴んでいるハーマイオニーが、ズルズルと引きずられている。リンも慌ててバックビークを宥めにかかった。


「だめ、バックビーク……お願いだから、我慢して」


 背を押さえるように撫でつけ、空いている手を嘴に当てて、そこに顔を寄せる。


「頼むよ……いまはまずいんだ」


 それと同じくらいに、ハグリッドの姿が見えなくなった。バックビークは暴れるのをやめ、哀しそうに首を項垂れた。リンがポンポンと身体を優しく叩いてやると、一瞬リンに目を向けたあと、地面にしゃがみ込んで身体を伏せた。


 ホッと息をついたハリーとハーマイオニーが、地面に崩れ落ちるように腰を下ろす。リンは、ふと何かの気配を感じた気がして、不思議そうに「暴れ柳」の方を見た。そして、瞠目した ――― スネイプとナツメが、「柳」の根元にいる。


 瞬間移動で現れたらしいナツメは、スネイプが「柳」の動きを止めるまでの間、静かに周りを見回し、かがんで「透明マント」を持ち上げた。しげしげと眺めたあと、それを適当に畳んで、肩から下げている鞄の中に突っ込む。


 そこで、ちょうどスネイプがナツメを振り返った。何かを言っているスネイプに軽く手を振り、ナツメは彼の腕を掴んで、再び瞬間移動をし、姿を消した。


(……あそこに現れた意味ってあった?)


 リンは思わずツッコミを入れた。瞬間移動するなら、わざわざ「暴れ柳」のところに現れる必要などなかったはずだ。なぜ「柳」に来た? 小休止? 小休止なのか? だとしても、それでは、スネイプの行動には何の意味もなかったということになる。ならば一声かけてやれば良かっただろうに。浮かばれない。


 スネイプに対して同情めいたものを覚えたリンだったが、頭〔かぶり〕を振って溜め息をつき、バックビークに背を預けるような形で、ハリーとハーマイオニーの間に腰を下ろした。


 ハリーと何やら話していたハーマイオニーが、会話を区切ってリンを見る。


「どうかした? 何かあったの?」


「……母さんが、スネイプ先生と一緒に『叫びの屋敷』に行ったよ」


「そう……じゃあ、それで全部ね」


 ハーマイオニーが思案するように言った。


→ (3)


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