「逆転時計」 (4)



「ハーマイオニー、そろそろだ」


 ちょんと彼女の肘辺りを小突いて、リンは囁いた。リンが指す方向を見て、ハーマイオニーがハッと息を呑んだ。


「まもなく私たちが出てくるわよ!」


 ハグリッドの小屋の裏口が開いた。「透明マント」をかぶった三人と、結界に包まれたリンとスイが出てくる。自分を見送るリンの耳に、ハグリッドの小屋の戸を叩く音が入ってきた。死刑執行人の一行の到着だ。いよいよか……リンは少し緊張を覚えた。


『獣はどこだ?』


 半開きになっている裏戸から、マクネアの冷たい声が聞こえてくる。


『外 ――― 外にいる』


 ハグリッドの掠れ声が、リンたちの耳に届く。同時に、マクネアの顔が、小屋の窓から覗き、バックビークをじっと見た。


 ハリーとハーマイオニーは、見られないようにか、頭を引っ込める。結界を張ってるからべつにいいのにと呟いたリンの頭を、ハーマイオニーがガッと掴んで木陰に連れ込んだ。


「……あのさ、ハーマイオニー。君、さっきから私の扱いが雑じゃない?」


「マクネアの顔が窓から消えたわ ――― リン、さあ、いまよ」


「……はいはい」


 リンの抗議はキッパリ無視された。早く行ってきてと眉を吊り上げているハーマイオニーに了承し、リンは木陰から出た。かぼちゃ畑の柵を軽やかに飛び越え、バックビークに近づく。


 ファッジが死刑執行の正式な通知を読み上げる声に耳を傾けつつ、リンは、バックビークと目を合わせる。そのままお辞儀しようとして、その前に衝撃を食らった。思わず後ろへよろめくが、なんとか踏ん張る。


「……お辞儀くらいさせてくれない?」


 すり寄ってくるバックビークの頭を撫でながら、リンは曖昧な溜め息をついた。好いてくれるのは嬉しいが、しかし敬意を払わせてくれてもいいのではないだろうか……。


 ハーマイオニーといい、もう少しこちらの意思を尊重してほしいものだ。不満を抱くリンを、木の陰から顔を突き出したハーマイオニーが急かす。


「リン、早く! 急いで!」


「……まったく、慎重で危機管理能力の高い子だよね。――― ほら、バックビーク、おいで」


 皮肉混じりに呟いて、リンは、バックビークを柵へと繋いでいる綱を、手早くほどいた。ちょっと促すだけで、ヒッポグリフは従順にリンのあとをついてくる。リンがチラリと小屋を窺うと、委員会のメンバーのひょろひょろした声がした。


『さあ、さっさと片づけましょうぞ』


 黙れクソじじいが。リンは内心で毒づいた。何が「さっさと片づけよう」だ。平然としやがって。眉に思い切り皺を寄せ、リンは足を速めた。バックビークも、リンと歩調を合わせる。


 サッとハリーたちと合流して、森の中へと進む。視界が遮られるところまで来て、ハーマイオニーが立ち止まった。


→ (5)


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