「逆転時計」 (3)



 森の端を縫うように、こっそりと木々の間を進んでいく。やがて、ハグリッドの小屋の戸口が垣間見え、戸を叩く音が聞こえた。


 ハリーとハーマイオニーが、急いで太い樫の木の陰に隠れた。リンはその場に立っていたが、ニュッと伸びてきたハーマイオニーの手に腕を掴まれ、強引に木の陰に引きずり込まれた。


「……痛いよ、ハーマイオニー」


「黙って」


 幹の脇から顔を出して、小屋の様子を窺いながら、ハーマイオニーがパシッと言った。最近、なんだか雑というか冷淡に扱われている気がする……。ハグリッドと話している方のハリーの声を耳にしつつ、リンは思った。


「もうちょっと行きましょう……バックビークに近づかないと!」


 小屋の戸が閉まったのを確認して、ハーマイオニーが囁き、さっさと歩き出す。リンはハリーを見た。ハリーが肩を竦める。ちょっとしたアイコンタクトをして、リンはハーマイオニーを追った。


 かぼちゃ畑の柵に繋がれているヒッポグリフは、不穏な空気を感じ取っているのか、そわそわと落ち着かない様子だった。それを遠目に見て、ハリーが女子二人を振り返る。


「やる?」


「ダメよ!」


「だめ」


 間髪入れず否決されて、ハリーはショックを受けたような顔をした。そんな彼を、ハーマイオニーが容赦なく叱る。


「あなた、なに考えてるの? いまバックビークを連れ出したら、ハグリッドが逃がしたと思われるでしょ! 外に繋がれてるところを、委員会の人たちに見せなきゃ!」


「それじゃ、やる時間が一分くらいしかないよ」


「『やってみなきゃ』って言ったのは、どこのどなた?」


 不可能だと言わんばかりの表情で、ハリーが言うと、ハーマイオニーはピシャリと撥ね退けた。辛口だとリンが苦笑したとき、陶器の割れる音が、ハグリッドの小屋から聞こえてきた ――― ハグリッドがミルク入れを壊した音だ。


 それから数分して、三人は、ハーマイオニーがスキャバーズを見つけて驚いたときの叫び声を聞いた。


「……それじゃ、ペティグリューを捕まえるのも、いまじゃないんだよね?」


 じっと小屋を見ながら、ハリーが言った。リンが首肯する。


「いまペティグリューを捕まえに行ったら、矛盾が生じるよ。ペティグリューの正体を私たちが知らないという筋書きになってしまう。そうすると、私たちがいまここにいるという事実もなくなってしまう……言ってること、分かる?」


「なんとなくはね」


 難しそうな顔でハリーが頷いた。「それでいいと思うよ」と笑うリンに、ハーマイオニーが眉を寄せる。


「矛盾とかいう前に、もっと大事なことを教えてあげてちょうだい! 誰にも見られちゃいけないっていう、」


「君が教えてあげたらいい。私より君が言った方が、ハリーは納得するだろうから」


 面倒になったので、リンは丸投げをした。ハーマイオニーは眉を吊り上げていたが、いい具合におだてられたからか、いざハリーへと話し始めた声音は、比較的穏やかなものだった。


 二人の会話を耳に入れつつ、リンは小屋を見つめ、それから、ふと城の方へ顔を向けた。ダンブルドア、ファッジ、委員会のメンバー、それに死刑執行人のマクネアが、正面玄関の石段を降りてくるのが見えた。


→ (4)


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