時間を巻き戻す (3)



「ペティグリューに用がある」


「……分かりました」


 連れてこい。そう言外に命令するナツメに、リンは簡潔に返答をした。自分で行けと、スイ(とハリー、ハーマイオニー)は思ったが、言っても無駄であることは確実なので、潔く諦めることにした。


 しかし、了承したはいいが、方法が分からない……ハリーはハーマイオニーを見た。彼女も困惑しているようだった。リンを見れば、もう立ち上がって身支度をしている。


 ハリーはもう一度ハーマイオニーとアイコンタクトをした。ぎゅっと唇を引き結んだハーマイオニーが、意を決してナツメに声をかけた。


「……あの、ミセス・ヨシノ? あの、どうやってペティグリューを連れてきたらいいのでしょう? きっと、もう遠くに逃げてしまっていると思うのですが ――― 」


「お前は馬鹿なのか?」


 ナツメが辛辣に言い放った。


「頭を使え。自分ですべてを順序よく考えるんだ。段取りから丁寧に説明してもらって、段階ごとにいちいちヒントを出してもらわなければ解けないのか? なんて柔軟性のない思考回路だ……試験はできても実社会ではやっていけない人間の典型だな」


 呆れたように息をつくナツメに、ハーマイオニーの頬が一瞬ひくりと動いたが、彼女は何も言わなかった。ハリーは、励ますというか慰めるような目で、ハーマイオニーに視線を送った。


「……ハーマイオニー、君がいま、首からかけているものは何?」


 フォローするように、リンが言った。ハーマイオニーは何か言いかけ、そこでハッと目を丸くした。それを見て、リンが緩やかに笑う。


「そういうことだよ」


 ハリーには何が何だか分からなかった。抽象的な会話ばかりで、自分が置いてけぼりにされている気分だった。そんなハリーに、ハーマイオニーが立ち上がるように言う。素直に従うハリーの横で、リンは腕時計で時間を確認していた。


「……ハーマイオニー、二回引っくり返せば十分だと思う」


「三回にしておけ」


 ナツメが口を挟んだ。不思議そうな顔をするリンに、口角を吊り上げて言う。


「ついでに、あの愚鈍で自己中な貧弱野郎の鼻っ柱をへし折ってこい」


 愚鈍で貧弱はともかく、自己中という言葉をナツメが使うのは、自分の棚上げではないだろうか……。スイは思ったが、賢明な判断力のもと、黙っておいた。そのまま、ナツメの命令を了承したリンの肩へと上ろうとしたが、そのリンに止められる。


「……心配だから、ロンとシリウスについていてほしいんだ」


 何が心配なのか、言わなかったが、十分に伝わった。スイは一瞬の迷いのあと、依頼を引き受けた。リンが微笑んで、スイの頭を撫でる。スイの尻尾がゆらゆら揺れた。


「……行ってくるね」


 そっとスイから手を離して、リンは、ハリーたちの元へと歩み寄った。ハーマイオニーが用意している「逆転時計」の鎖を、ひょいと首にかける。


「いいわね?」


 ハーマイオニーが息を詰めて言った。リンが頷く。ハリーは一人完全に当惑しているようだった。


「僕たち、いったい何してるんだい?」


 ハリーが質問を言い切らないうちに、ハーマイオニーが、鎖の先についた、キラキラした小さな砂時計を三回引っくり返した。そして、スイたちの目の前で、三人は、まるで空気の中に溶けるように姿を消した。



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 ナツメさんの発言って、内容を考えるのがとても大変。
 あと、ピリピリした雰囲気に耐えられない。



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