時間を巻き戻す (2) 思わず振り返ったリンの目と、ハリーの目が合う。そのすぐあと、バツが悪そうな顔で起き上がってナツメを見るハリーから視線をずらせば、ハーマイオニーの顔も見えた。彼女も起き上がり、緊張した表情でナツメを見つめている。 未だ起きないロンとブラックは、果たして大丈夫なのだろうか……。リンが心配していると、舌打ちが聞こえてきた。リンは慌ててナツメの方へ向き直る。 「私の話の最中に、いつまで私に背を向けてるつもりだ?」 「……すみません」 殊勝に謝罪するリンの横で、スイは顔を引き攣らせた。他人の話を、目もくれずに完全無視するアンタが言うな!!! と怒鳴りつけてやりたいが、口を挟むとまたうるさくなるし、ハリーたちの前なので、黙って睨みつけるに留めておく。 (つーか、スネイプ。お前、意見できる貴重な立ち位置にいるんだから、注意しろよ) ジト目で見ると、スネイプは能面のように無表情で、しかし微妙そうな目でナツメを見ていた。過去に注意した際に、ナツメの機嫌を完全に損ねて甚大な被害を被ったため、表立って注意したくないと、彼が内心思っていることなど、スイが知る由もない。 「それで、お前らは、ペティグリューを逃したわけか」 突然、何の脈絡もなく、ナツメが爆弾を落とした。スイ、ハリー、ハーマイオニーは、愕然として言葉を失った。なんで知っているのか、という共通の疑問が彼らの頭の中を支配する。ただリンだけは、思い当たる節があった。 「では、『叫びの屋敷』で、私たちがいた部屋の隣の部屋に隠れて話を聞いていたのは、母さんとスネイプ教授だったんですか?」 「隠れて聞く? 隠密調査してただけだ」 ――― いや、それを盗聴してたっつーんだよ。 人聞きの悪いことを言うなといった、不快そうな雰囲気のナツメに、スイが内心でツッコミを入れた。リンも似たような気持ちだったが、何も言わないことを選択した。ハーマイオニーも黙っている。しかし、ハリーは、静かにはしていなかった。 「話を聞いていたなら、どうして助けてくれなかったんですか?」 青ざめたリンがハリーの腕を掴んで制止したが、ハリーは無視した。キッとナツメを睨みつけて、詰問する。 「手を貸しもしなかったくせに、全部が終わったあとに現れて、それで『ペティグリューを逃がしたのか』? ふざけないでください! どれだけ上から目線 ――― 」 「……うるさいなぁ」 しみじみとした調子で、しかし確実に苛立った様子で、ナツメが呟いた。冷え切った目で見下ろされて、ハリーは言葉を呑み込む。震えすら起きないほど、身体が硬直するのが分かった。 「黙れよ、糞餓鬼が。無条件で救いがもたらされると思ってんなよ。世間知らずが。分かりもしないことに口を出すな」 容易く人を殺せるのではないかと錯覚するくらいの眼光に当てられて、ハリーは竦んだ。昨年、マルフォイ氏がナツメと対峙していたとき、彼の顔色が悪かった理由が、いまのハリーなら容易に分かる。 「……私たちに、いったい何をさせたいのですか?」 凍りついたような空気の中、リンが静かに尋ねた。スイ、ハリーとハーマイオニーが、視線を向けてくる。それを無視して、リンはただナツメを見つめた。 「いまここに、私たちの前に現れたのは、私たちに何かをやらせたいからですよね」 「なかなかいい推理力だな。話が早くて助かるよ」 ナツメは口角を上げた。上からの目線に、スイは内心苛立ったが、表情に出ないよう押し留めた。ここでまた機嫌を損ねたら、いろいろと終わる。その雰囲気を察しているらしく、今度はハリーたちも無言だった。 じっとリンを見下ろしたあと、ナツメはスネイプを一瞥した。スネイプが身じろぎ、ナツメを見る。ついと目を細め、ナツメは再びリンに目をやり、言った。 → (3) |