不穏な日没時 (3)



 ハリー、ロン、ハーマイオニーが振り向いた。スイが窓辺に駆け寄って、ひょっこり顔を覗かせ、尻尾をビシッと振る。リンも立ち上がって、窓の外を剣呑〔けんのん〕に見つめた。


「お前さんら、行かねばなんねえ」



 大きな身体の隅々まで震わせて、ハグリッドが言った。スイが真っ先に動いた。驚くべき跳躍力で、窓辺から一気にリンの肩の上へと飛び乗り、急かすようにリンの背中を尻尾で叩いた。


 なす術がない、仕方がないと諦めて、リンたちはハグリッドの小屋を離れた。みんな無言で、城に向かう芝生を登る。


 太陽は沈む速度を速め、空は薄っすらと紫を帯びた透明な灰色に変わっていた。しかし、西の空は、ルビーのように紅く燃えている。


 不意に、ロンが立ち止まった。



「………ロン? どうかした?」



 彼のすぐ後ろを歩いていたリンが訝〔いぶか〕しんだ。ロンはギュッと顔を顰〔しか〕める。



「スキャバーズが ――― こいつ、どうしても ――― じっとしてないんだ ――― 」



 ロンはスキャバーズをポケットに押し込もうと必死だったが、スキャバーズはロンの手から逃れようと、もっと必死だった。


 四人(スイを含めれば五人)の背後で、ドアが開く音がして、人の声も聞こえてきた。ハーマイオニーがヒソヒソ声で急かしたので、四(五)人は前進した。

 ハリーとハーマイオニーは、背後の声を聞くまいと努力しているようだった。リンが唇を引き結んだとき、ロンがまた立ち止まった。どうもスキャバーズを押さえていられないらしい。


「スキャバーズ ――― 黙れ、みんなに聞こえちまうよ ――― 」



 ネズミはキーキー喚き散らしていたが、それでも、ハグリッドの庭から聞こえてくる音を掻き消すことはできなかった。

 誰という区別もつかない男たちの声が混じり合い、ふと静かになり、そして、突如 ――― シュッ、ドサッ ――― 紛れもない斧の音がした。



「やってしまった!」



 蒼白な顔で呟き、よろめいたハーマイオニーを、リンが支えた。真っ直ぐ前を見つめているリンの顔も、いつも以上に白い。スイが、慰めるように、リンの頬を軽く叩いた。



「ハグリッド……」



 我を忘れた様子で呟いて、ハリーが引き返そうとした。リンとハーマイオニーが、咄嗟に手を伸ばしてハリーの両腕を押さえた。



「だめ。いま戻ったら、ハグリッドの立場がもっとひどくなる。だから、我慢して」



 ギュッと、ハーマイオニーを抱き抱える手と、ハリーの腕を押さえる手に、それぞれ力を込めて、リンは一言「行こう」と呟き、三人を促した。


→ (4)


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