トレローニーの予言 (3)



 あまりにもショックを受けていたので、ジャスティンは医務室でマダム・ポンフリーの厄介になる羽目になった。

 最後の試験でこの様とは、なんて可哀想な……。リンは思ったが、すぐに、これが最後の試験で良かったのかと思い直した。

 もしこのあとに試験があったとしても、いまのジャスティンでは勉強に手がつかないだろう。そう考えると良いように感じられるが、しかし、せっかくの解放的な気分をみんなと満喫できないのは、やはり気の毒だ。


 ハンナたちと並んで歩きながら、そんなことを考えていたリンは、不意に立ち止まった。なにか、耳鳴りのようなものがする。

 不思議に思ったリンが周りを見渡したとき、周囲の風景がガラリと変わった。


 カーテンが閉めきられて、日光の入らない部屋。燃え盛る火をチラチラ映す、大きな水晶玉。その前の椅子に、一人の女性が、虚ろな目をして、口をだらりと開けて座っている。



ことは今夜起こるぞ



 女性のヒョロリと痩せた身体のどこからか、掠れた、それでいて太い声が出てきた。



闇の帝王は、友もなく孤独に、朋輩に打ち棄てられて横たわっている。その召使いは十二年間、動けぬ状態だった……今夜、真夜中になる前、ついに召使いは主人の元へ馳せ参ずるであろう。闇の帝王は、召使いの手を借り、再び立ち上がるであろう。以前よりさらに偉大に、より恐ろしく……今夜だ……真夜中前……召使いが……ご主人様の元へ馳せ参ずるであろう……



 太く、雄々しく荒々しい声が、リンの頭の中で反響する。ギョロギョロ動いていた、女性の虚ろな目が、カッと一点に視点を定めたとき、リンを取り巻く環境が、また変わった。



「 ――― リン? どうしたの?」



 ハンナたちが、心配そうな顔をして、突然立ち止まったリンを振り返っている。リンは呆然と彼らを見つめたまま、肩で息をする。


 廊下の喧騒に隠れて、さっきの声が耳の奥で反響していた。



 ――― ことは今夜起こるぞ……



[*back] | [go#]