トレローニーの予言 (2)



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 そんなこんなで、試験が始まった。


 リンはいつも通り、そつなく試験を片づけていった。強いて言うなら、「呪文学」の試験で、緊張したハンナによる効果三割増の「元気の出る呪文」を食らって笑いの発作が止まらなくなって、一時間ほど静かな部屋に隔離されたのが、ちょっとした問題だった。


 矢のように時間が過ぎていき、とうとう試験最終日を迎えた。


 リンたちの最後から二番目の授業は「魔法生物飼育学」だった。午後からバックビークの控訴裁判があるということもあって、ハグリッドはまったく心ここに在らずの状態だった。



「バックビークはどう? 元気?」



 終了時刻まで「レタス食い虫」を生かしておくという、なんとも楽な試験の最中、リンはハグリッドに声をかけた。ハグリッドは、泣いてはいなかったが、むしろ涙も枯れ果てたという感じで、生気の感じられない顔をしていた。



「ビーキーは、なげぇこと狭いとこに閉じ込められとるもんで、ちと滅入っとる」



 ハグリッドの、いつになく落ち着いた声音が、リンをより悲痛な気持ちにさせた。



「だけんど……これから、ハッキリする ――― どっちかにな」



 大丈夫だから、諦めないで……。そんな言葉は、喉の奥で消えてしまった。ハグリッドが別の生徒の方へ行く気配を感じながら、リンはぎゅっと唇を噛んで、地面を睨みつけた。



 昼食を終えたら、最後の試験「闇の魔術に対する防衛術」のために、リンたちは再び戸外へ出た。ルーピンは、いままで経験したことのない独特な試験を出した。


 障害物競走のようなもので、水魔のグリンデローが入った深いプールを渡り、赤帽鬼のレッドキャップがたくさん潜んでいる穴だらけの場所を横切り、おいでおいで妖精のヒンキーパンクをかわして沼地を通り抜け、まね妖怪のボガートが閉じ込められているトランクに入り込んで戦うというものだった。


 リンが、まね妖怪扮する吸魂鬼を気合い(と少しの超能力で)退散させてトランクから出ると、ルーピンが立っていて、ニッコリ微笑んでいた。



「上出来だよ、リン。満点だ」


「……あ、りがとうございます」



 ぎこちなく礼を言ったあと、リンはルーピンから少し距離を取り、そこで友人たちの様子を見た。


 ハンナは、みんなが心配した通り、まね妖怪のところで失敗した。ベティは赤帽鬼の攻撃に悲鳴を上げて騒いでいたが、なんとかまね妖怪までクリアした。スーザンとアーニーは、二人とも課題を完遂した。


 ジャスティンも、ラストまではすべて完璧にこなしたが、まね妖怪が潜むトランクに入って一分も経たないうちに、絶叫を上げて飛び出してきた。



「ジャスティン、どうしたんだ?」



 ルーピンが驚いて声をかけるが、ジャスティンは、トランクを呆然と見つめたまま硬直している。心配したアーニーが名前を呼んで肩を揺すってやると、ジャスティンはようやく口を開いた。



「い、い、いらないって!! リンが ――― リンが!! 僕なんていらない、役立たず、消えろって……!!!」



 トランクを指差して絶句するジャスティンを見て、ほかの六人も、しばらく言葉を失った。



「アンタの世界、どんだけリン中心なのよ……」



 数秒して、ベティが呆れたように呟いた。


→ (3)


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