トレローニーの予言 (1)



 クィディッチ優勝杯は、残念ながらハッフルパフのものにはならず、最後のトーナメント戦で健闘したグリフィンドールが勝ち取った。


 惜しいところで逃したため、ハッフルパフ生はみんな大いに悔しがったが、その反面、素直にグリフィンドールを祝福してもいた。


 クィディッチで沸き起こった興奮がなかなか冷めないというのに、多くの生徒たちにストレスを感じさせる一大行事が、薄情にも迫っていた。学期末試験だ。


 これは逃れようがなかった。みんな大人しく、のんびりしたいという願望と闘い、脳みそに気合いを入れて勉強に集中するしかなかった。



「テストなんて、なくなればいいのに……テスト……テストなんてぇえ……」



 机に突っ伏して「変身術」の教科書をめくりながら、ベティが唸った。彼女の隣で「魔法薬学」の教科書とレポートを見直していたスーザンが、顔を顰〔しか〕める。



「ちょっと、ベティ、黙ってて。集中できないわ」


「だって! ここのところ、勉強しかしてないじゃない!」


「静かにしてくれる?」



 起き上がって叫び出すベティに、「魔法史」を復習していたリンが眉を顰〔ひそ〕めたが、ベティは無視した。



「一気に九科目も勉強しなくちゃいけないなんて! もうイヤ、頭痛い!」


「静かにしてくれる」


「時間とか全然足りないんだけど! 先生たちなに考えてんの? 去年より二科目も増えて大変なんだから、考慮してよ、バカ!」



 ベティは再び背を丸め、両腕を枕のようにして机に突っ伏した。リンが、教科書から目を離さないまま、冷ややかな声を出す。



「うるさいんだけど」


「もう本当イライラする! だいたい、」



 バンバン、ベティが片方の握り拳で机を叩いたときだった。



「黙れ」



 ゴッ! 鈍い音がして、それきりベティの声が途切れた。一部始終を見ていたスイは、頬を引き攣らせた。

 珍しく苛立っている様子であったリンが、手にしている「魔法史」の分厚い教科書を閉じ、わめくベティの後頭部に向けて、それを勢いよく振り下ろしたのだ。しかも、一番面積の小さい面で。

 心なしか、ベティの後頭部から、白い煙が上がっている幻覚が見える気がする。



「………ベ、ベティ? だ、大丈夫……?」



 勉強する手を止めて、ハンナが恐る恐るとベティに声をかけたが、反応がない。心配して覗き込もうとするハンナを、スーザンが止めた。憐むとしか言い様のない目でベティを見つめている。


 スペースの関係で女子たちから少し距離を取って勉強していた男子二人は、揃って静かにリンの方を見ていた。ただ、アーニーの目が少々咎めるような色を宿しているのに対して、ジャスティンの目は輝いている。



「攻撃するときは潔く! 躊躇は一切しない! なんてクールな……ああ、リン、さすがです!」


「おまえもう黙っとけよ」



 スイが思わず突っ込んだが、幸い談話室内が騒がしく、誰にも聞き咎められずに済んだ。リンが一瞬スイに視線を向けてきたが、特になにも言わず、黙々と十二科目分の試験勉強に取り掛かった。


→ (2)


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