忍びの地図 (6)



 膨大な量の情報が、ハリーの頭の中に入ってきて、グルグル渦巻いた。


 ハリーの父とブラックが無二の親友だったこと。

 父がブラックをほかの誰よりも信頼していたこと。

 ブラックが、両親の結婚式のとき新郎の付添役を務め、ハリーの名付け親になったこと。

 ブラックが「忠誠の術」における「秘密の守人」になったこと。


 そして、彼が父を裏切ったこと。


 逃走したブラックをペティグリューが見つけたこと。

 追い詰められたブラックが、ペティグリューを木端微塵に吹き飛ばしたこと。

 アズカバンに収容されても、ほとんど吸魂鬼から影響を受けていなかったこと。



 ハリーは眩暈と耳鳴りを覚えた。気持ちが悪い。意図せず呼吸が止まり、酸素が足りなくなる。生理的にも精神的にも泣きそうになったとき、体温の低い手が、ハリーの手に触れた。


 ハリーは驚いて視線を向けた。その拍子に、呼吸器官が役目を思い出した。白くて薄い手が乗せられている ――― リンの手だ。


 いつにも増して白い顔をしながらも、リンはハリーの手を強く握ってくれていた。それに安堵して、ハリーは、無意識に身体に込めていた力を抜いた。



「 ――― だけど、なんのために脱獄したとお考えですの? まさか、大臣、ブラックは『例のあの人』とまた組むつもりでは?」



 マダム・ロスメルタが聞いた。ハリーは、先程よりはずっと冷静に話を聞けていた。



「それが、ブラックの ――― アー、最終的な企てだと言えるだろう」



 ファッジは言葉を濁した。



「『ご主人様』を破滅させた奴を殺し、『ご主人様』を喜ばせるものを持参するつもりではないかと思うがね」


「喜ばせるもの? ハリー・ポッターの命ですか?」


「いいえ ――― そうではありません」



 マクゴナガル先生が否定した。いつの間にか、先生の声は鼻声になっていた。



「ダンブルドアもおっしゃっていますが、『例のあの人』は自らを強めるものを望んでいるのです。それで『あの人』が目をつけたのが……その……、ヨシノの能力なのです」



 リンの指の力が強くなり、ハーマイオニーとロンが息を呑む気配がした。その音に重ねるように、マダム・ロスメルタが好奇心に満ちた声で質問をする。



「ヨシノの? いったいどんな能力なんです?」


「詳しいことは説明できません。あの一族は、決してほかの者に多くを語りませんから」


「しかし、いくつかの文献に、西洋人が目の当たりにした彼らの能力の一部が記されていましてね」



 フリットウィック先生がキーキー声で、マクゴナガル先生のあとを引き取った。



「それらによると、彼らは実に多様な能力を持っている。特にすごいものを挙げると、千年先まで未来を予見できる。また、人や動物、無機物に至るまで、すべてのものを対象に、それらが持つ性質や能力を、ほかのものへと移し替えることができる。応用すれば、知性や身体能力、魔力、その気になれば寿命や運命すらも、一方から奪って他方へ移したり、対象間で交換したりできる」


「まさに『あの人』が欲しがりそうな能力だ」



 ファッジが溜め息混じりに言った。


→ (7)


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