忍びの地図 (5)



「一日くらいいいでしょう? 一足早いクリスマスってことで、ね?」


「………………分かったわ」



 ついにハーマイオニーが折れたので、ハリーは有頂天になった。


 ハニーデュークスの商品をいろいろ眺めたあと、ロンとハーマイオニーはお菓子の代金を払い、四人は店をあとにして、吹雪の中を歩き出した。


 しばらくロンとハーマイオニーの案内を聞きながら歩いて、不意にロンが歯をガチガチ言わせて提案した。



「ねぇ、『三本の箒』に行って、『バタービール』を飲まない?」



 ハリーが賛成し、リンとハーマイオニーも異論を唱えなかったので、四人は道を横切り、数分後には小さな居酒屋に入っていった。


 中は人でごった返し、うるさくて、暖かくて、煙でいっぱいだった。カウンターの向こうには、小粋な顔をした曲線美の女性がいた。



「マダム・ロスメルタだよ」



 聞いてもいないのにロンが言った。そのあとロンはちょっと赤くなって、飲み物を買ってくるといってバーに歩いていく。ハリーとリンは、ハーマイオニーと一緒に、奥の空いている小さなテーブルの方へと進んだ。


 五分後に、ロンが大ジョッキ四本を抱えてやってきた。泡立った熱いバタービールだ。



「メリー・クリスマス!」



 ロンは嬉しそうにジョッキを挙げた。乾杯をしたあと、ハリーはグビッと飲んだ。こんなに美味しいものはいままで飲んだことがない……身体の芯から暖まる心地だった。リンを見ると目が合い、微笑んできたので、ハリーはますます気分がよくなった。


 その気分も束の間、急に冷たい風がハリーの髪を逆立てた。「三本の箒」のドアが開いていた。大ジョッキの縁から戸口に目をやったハリーは咽込む。リンが「あらら」と呟く声がした。


 マクゴナガル先生とフリットウィック先生が、舞い上がる雪に包まれて、パブに入ってきた。すぐ後ろからハグリッドが入ってくる。若緑の山高帽に細縞のマントを纏った、でっぷりした男と話に夢中になっている。コーネリウス・ファッジ、魔法省大臣だ。



「……変な組み合わせ」


「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」



 呑気なリンに、ハーマイオニーが鋭く囁いたが、リンは飄々としている。



「言ったでしょう? 姿を見られないようにしてるって。だから大丈夫だよ」


「先生方には見破られるかもしれないじゃない!」



 半ばヒステリックになって、ハーマイオニーが杖を取り出し、傍にあったクリスマス・ツリーに杖を向けて呪文を唱える。ツリーが十センチくらい浮き上がり、横にフワフワ漂って、ハリーたちのテーブルの真ん前に着地し、四人を隠した。



「お見事」


「黙って!」



 リンがジョッキを軽く掲げて称賛したが、ハーマイオニーに一蹴された。リンは肩を竦めただけで、別段気にした素振りは見せなかった。


 盗み聞きをしたいわけではないが、距離が近いため否応なく、先生方の会話が耳に入ってくる。話題はシリウス・ブラックだった。


 最初の方は、ハリーもあまり興味を持っていなかった。しかし、ブラックの学生時代の話に移った辺りから、ハリーは引き込まれ、真剣に会話に耳を傾けた。


→ (6)


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