恐怖の試合 (3)



 五分もすると、リンは芯までびしょ濡れになり、凍えていた。見渡す限り、ほかのチームメイトも動きが鈍い。やはりこの天候は悪影響を与えてきている。できるだけ早くスニッチを見つけなければ……使命感に従って、リンは、グラウンドの上空をあちこち、紅色やら黄色やらの物体の間を抜けながら飛んだ。



 試合開始からずいぶんと経っているが、いまスコアはどうなっているのだろうか。クアッフルの行方を丁寧に追っているわけではないので、分からない。解説者の声は、風のせいで聞こえない。観衆もマントや雨傘に隠れて見えないので、彼らの反応を判断基準にすることもできない。


 紅色の選手が、リンの方に突撃してきた。アリシアだとリンは思った……ひょっとしたら違うかもしれないが。リンは宙返りして彼女をかわしたあと、箒の柄を上に向け、三メートルほど上昇する。さっきまでリンがいたところを、ブラッジャーが勢いよく通過した。



 時間の感覚がなくなってきた。まるで夜が足を速めてやってきたかのように、空はますます暗くなった。



 二度、リンはハリーとぶつかりそうになった。スニッチを見つけたのかと身構えたが、視界が雨で妨げられてろくに見えていないらしい。衝突しかけたのがリンであることにも気づいていないようだった。



 ついに稲妻が光り出したとき、フーチのホイッスルが鳴り響いた。土砂降りの雨の向こうに、エドガーの朧げな姿が見えた。選手たちに降りてこいと合図している。リンはそこに向かい、ほかの選手たちと一緒に、泥の中にバシャッと着地した。



「ウッドがタイム・アウトを要求した!」



 雨風の音に掻き消されないよう、エドガーが吠えるように叫んだ。



「集まれ、この下に ――― 」



 グラウンドの片隅の大きな傘の下で、選手がスクラムを組んだ。リンは頬に貼り付いている髪を払った。



「スコアはどうなってる?」



 雨風を受けてすごい髪型になっているローレンスが聞くと、エドガーは、フィールドの反対側にいる真紅色の集団を睨みながら、苦々しげに言った。



「向こうが五十点リードしてる」


「早くスニッチを取らないと、夜にもつれ込みますね」



 メンバーが悔しそうにする中、話を聞きながら空模様を観察していたリンが言った。エドガーが頷く。



「プレッシャーをかけるつもりはないけどさ、リン、頼むぞ」


「はい」


「俺たちもがんばらねぇとな」


「けどよ、こんな悪天候じゃ、がんばりたくてもきついぜ」



 頷いたリンの横で、ローレンスが笑った。その向かいで、ロバートが、髪を絞りながら、眉を下げて空笑いをする。



「視界が悪くって、まともに周りが見えねーもん。リンもきついだろ?」


「いえ、目の周りだけ防水してるので、問題なしです」


「あ。それだったら、俺とヴィックもやってる」


「教えろよ!!」


「自分で思いつけよ!!」



 挙手したローレンスに、ロバートが突っかかる。ローレンスは怒鳴り返して、ロバートの頭を叩いた。エドガーが「ケンカすんな」と注意する。


→ (4)


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